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第44話 眩しいほどの
マンションに着く少し前に咲は目を覚ました。
「申し訳ございません……社長」
「マンションに着くまで寝ててよかったのに」
咲が眠っている間にキスをしたことは内緒だ。
「社長が運転されているのに、私が眠ってしまうなんて……」
「だからさ、咲。今日は休日なんだから社長も秘書もないだろ」
実家の俺の部屋にいるときはとても近くに感じたのに、また他人行儀の態度に戻ってしまった咲に焦れてしまい、ついきつい言い方になってしまった。
「すいません……」
咲はうつむいて謝罪の言葉を口にする。
「あ、いや。悪い。そんな落ち込まないでくれよ、咲。でもさ、やっぱり二人きりのときくらい社長って呼ぶのはやめてくれないか」
「でも社長は社長ですから……」
「和希って呼んで」
「でも……」
「お願い」
柄にもなく可愛くおねだりしてみる。
「………………和希、社長」
かなりの間の後、咲はようやく俺の名前を呼んでくれた。
社長という言葉が邪魔だったが、これはまあ仕方ないだろう。
俺は咲の手を引っ張ると華奢な体を強く抱きしめた。
「ありがとう……咲」
咲は抵抗することなく俺の腕の中でじっとしながら、何度かの逡巡のあと言ってくれた。
「……俺、和希社長のおかげで随分楽になれた気がします」
久しぶりの『俺』という言い方に胸が躍る。
「今日は本当にありがとうございました」
咲は重ねてそう言うと俺の体からすり抜け、車から降りる。
丁寧に一礼し、去っていこうとする咲の背中に俺は声をかけた。
「咲、用事がなくても、電話していい?」
咲は振り返ると、作ったものではない眩しいほどの笑顔で応じてくれた。
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