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第45話 Side.Saku 招待

        ***  大好きな人からとても悲しい話をされたときに見た紫のアジサイ。  一面の紫色がいつまで経っても忘れられなくて、辛くて。  けれど、今、俺の周りには白とピンクのアジサイだけが咲き誇り雨に濡れて輝いている。  梅雨もアジサイも大嫌いだったのに、俺の心は暖かくて……ずっとこの白とピンクの可憐な花に囲まれていたいと思う。  優しい雨に打たれていると、どこからか音楽が聞こえてきて――――。 「……ん……」  音楽だと思ったのはスマホの着信音で、俺の意識が夢の世界から現実へとゆるゆると戻っていく。  ベッドサイドで鳴り響くスマホをベッドの中から手を伸ばして取り、電話をかけて来た相手を確かめる。  社長からだ。  なぜかトクンと鼓動が跳ねる。 「……はい」 『咲? 寝てたのか?』 「え? あ……はい……」 『お前案外ねぼすけなんだな。もう九時回ってるぞ』  社長の笑い声を耳に心地よく感じながら、時計を見ると確かに九時十五分過ぎだ。  こんなに遅くまで目が覚めないなんて、珍しい、と自分自身思う。  いつもは休日でも遅くとも七時前には自然に目が覚めるのに。  夢の中のアジサイと雨が心地よくてついつい寝すぎてしまったみたいだ。 『おはよ。咲』  優しく頭を撫でてくれるような声がスマホから聞こえて来る。 「おはようございます。社長」 『違うだろ、咲』 「え? あ、……和希社長」  社長の名を呼ぶのはやはり恥ずかしい。 『よろしい。……じゃ、切るわ』 「え?」 『ちょっとさ、おまえの声が聞きたくなっただけだから』 「…………」  いったいどんな顔をして、こんなセリフを言ってるんだろう?  シャープな美貌を持つ社長の顔を思い浮かべると、また一つトクンと鼓動が跳ね上がる。  随分長い間忘れていた色んな気持ちを社長は思い出させてくれる人。 『咲、また明日な』 「あ! 待ってください、社長。いえ……和希社長」 『何?』 「もし良ろしければ、夕食食べにいらっしゃいませんか?」  気づけば俺はそんな誘いの言葉を口にしていた。 『えっ……』  スマホの向こうで社長が絶句する。 「昨日のお礼に」 『咲の手料理ご馳走してくれんの?』 「……どちらでも。デリバリーを頼んでもよろしいですし」 『俺は咲の手料理が食べたい』 「味の保証はできませんがよろしいでしょうか」 『咲の作ったものならおいしいに決まってる。……じゃ、夕方五時くらいにおまえの部屋へ行くよ』 「はい、社長、あ、いえ和希社長。お待ちしております」  

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