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第46話 浮き立つ心

 通話を終えると、俺はベッドから出て、窓辺によりカーテンを開けた。  今日も天気は雨だった。  もう梅雨明けしてもよさそうなものなのに、空一面を分厚い雲が覆っている。  今まではこんな日はただただ憂鬱だったけど、今日は違う。  社長が見せてくれた白とピンクのアジサイと、人魚姫の話を思い出すから。 「さてと、夕食には何を作ろうか」  自分でも驚くくらいに浮き立つ心で俺は寝室を出たのだった。  遅めの朝食を済ませ、身支度を整えると、近くにあるスーパーに買い出しに出かけた。  メニューは何にしよう? 洋食? 和食?   ……こんなことなら社長に何食べたいか聞いておけば良かったかな。  スーパーの中をうろうろして悩んだ挙句、無難なところでハンバーグを作ることに決めた。  子供っぽいメニューかもしれないけれど、凝った料理を作れるほど俺は料理が得意ではないし。  食材を次々かごへ入れながらふと思う。  誰かのために料理を作るなんて、あの人……健志郎さん以来だな。  そんなふうに考えるとやはり胸が痛んだが、今夜社長が来ることを考えると不思議なくらい胸の痛みは楽になった。  マンションの自室へ帰ってくると買ってきた食材をダイニングのテーブルの上に並べ、下ごしらえを始める。  サラダ用のレタスをちぎっているとき、インターホンが鳴った。  時計を見ると、まだ三時を回ったばかりだ。  ……えっ……社長、もう来られたのかな?  まだ何も用意できていないのに。  慌てながらインターホンに出ると、そこから聞こえてきたのは社長の声ではなく、 『咲? 俺だよ』  健志郎さんだった。

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