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第51話 対決
時計を見ると五時十分前。
今度こそ社長だ。
だめだ。今日は社長には会えない。
俺は手を拘束されたまま全裸でソファに横たわっていて。
だらしなくYシャツを着崩し、ズボンの前をくつろげた健志郎さんが乗っかっている。
どうしようと俺が途方に暮れていると、健志郎さんがズボンのチャックを上げながら、言った。
「もしかして椎名がやって来たのか? ちょうどいいじゃねーか。俺とおまえの関係、はっきり知ってもらおうぜ」
嫌な笑い方をすると、インターホンの方へと歩いて行き、応答した。
「はい。椎名か?」
「やめてくれ! 健志郎さん」
『咲? ……おまえ誰だ!?』
「咲の男だよ。ちょっと遅かったな、椎名」
『おまえ、健志郎だな!? 咲に何をしやがった!! ここを開けろっ』
「そんなに怒鳴らなくても開けてやるよ」
健志郎さんがオートロックを解除した。
玄関の鍵は施錠していなかったので、すぐにすごい勢いで社長が部屋へと飛び込んできた。そして、凍り付いたように息を呑む。
俺は相変わらず手を拘束されたままソファで横たわっており、健志郎さんはすぐ傍で座り、ニヤニヤと挑発するような笑いを浮かべている。
「……っ……てめぇ!」
社長が絞りだすような声を出したかと思うと、次の瞬間には健志郎さんに殴りかかっていた。
健志郎さんは殴られても勝ち誇ったような笑いを浮かべるのをやめない。
社長が健志郎さんのYシャツをつかみ、再び殴りつけようとするのを、俺はとめた。
「もうやめてください、社長。俺なら大丈夫ですから」
「咲……」
社長は健志郎さんの体を乱暴に突き放すと、俺の両手首を拘束しているネクタイを解いてくれた。
「大丈夫か? 咲」
縛られていた手首は赤い蚯蚓腫れになっている。
社長は苦しそうにその傷に触れた。
「俺なら本当に平気です……和希社長」
さすがに笑みを浮かべるのは少ししんどかったけれど、俺は無理に笑って見せた……多分、俺より何倍も辛い思いをしている社長のために。
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