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第52話 対決2

 でも俺の微笑みを見て、社長はより辛そうで苦しそうな表情になった。 「咲……それは、おまえがまだあの野郎のことが好きだからか? 何されても許せるくらい、あいつのことを大切に思ってるから?」  激しい怒気に体を震わせながらも、俺の手首の腫れに触れる手はとても優しくて。  泣きそうになるのを俺はこらえた。 「違います。和希社長」 「咲……?」  俺はすぐ傍で不敵な笑みを浮かべている健志郎さんを一瞥してから、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「和希社長、俺はあの人に抱かれてなんかいません。あの人が抱いたのはただの人形です。その証拠に……俺の体は、少しも反応しませんでしたから」 「咲……」  それでも社長はまだひどく辛そうで。  俺の頬に優しく触れてから強く抱きしめてくれた。  社長の肩越しに、俺の中では過去の人となった健志郎さんと目が合う。 「健志郎さん、あなたのこと、本当に好きでした。でも、今はもう違います。どうか妹の桜と子供だけを大切にしてあげてください」 「咲、おまえがこの俺から離れられると思ってるのか?」  それでも引かない健志郎さんの存在は俺にはただ哀しいだけだったけれど、社長は許せないみたいで。  俺を離すと、もう一回健志郎さんを力任せに殴り飛ばした。 「和希社長! もうやめてください……。 この人は俺にとってもう過去の人です。社長が手を痛める必要ありません」  腕に縋りついてとめると、社長は強く拳を握ったまま言葉を吐き捨てた。 「…………分かった。でももうこれ以上この部屋にはいて欲しくねーから」  社長の方が背は高いけれど、健志郎さんの方ががっしりとしている。  すらりとスリムな体のどこにこれほどの力があるのか社長は健志郎さんの襟首を乱暴につかむと玄関へと引き摺って行く。 「咲! 今に見てろ!! この男はおまえを裏切るぞ。いつか絶対おまえは捨てられるからな!」  扉の外へと追い出される間際、健志郎さんが叫び、部屋が揺れるかと思うくらいの勢いで社長が扉を閉める。  外側から扉を思い切り蹴り飛ばす音を最後に静かになった。

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