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第53話 忘れて……
社長と二人きりになった部屋で、俺は徐々に絶望に支配されて行く。
さっきは大丈夫だと言い微笑んで見せたけれども、あんな生々しい場面を見られたことがショックでないわけがない。
「社長……、俺、秘書の仕事辞めます」
「……! どうして!? 咲……」
「社長が嫌でしょう? だって、あんな……」
それ以上は言葉にしたくなくて、唇を噛んでうつむくと、社長は俺を強く抱きしめ、ポツリと言葉を零す。
「……咲、ごめん」
「え?」
「おまえを守ってあげられなくて……本当にごめん」
「そんな、社長……どうして社長が謝る……っん……」
俺の言葉を遮るように社長の唇が押し当てられる。
しばらく唇を重ね合ったあとゆっくりと社長は顔を離し、俺の肩口に顔を埋めた。
「……もう、忘れろ、咲」
「社長……」
「忘れてくれ……」
ひどく弱弱しく掠れる声と肩に濡れた感触。
……社長……泣いて……?
「……っ……社長、和希社長……ごめんなさい……」
「咲……、あの男のことなんか全て忘れて」
「忘れます……いえ、忘れさせてください……社長が……」
背中に手を回して縋りつくと、社長は俺を抱き上げ、バスルームへと連れて行ってくれた。
熱いシャワーであの男に触れられた所をきれいに流してくれる。
体の奥深くに注がれた液体も掻き出すようにして全部外へと流してくれた。
シャワーの雨の下、深いキスを交わす。
二人の唇を繋ぐ糸をシャワーが流してしまうのが寂しい。
「好きだ……咲。俺だけを見て欲しい……」
額と額を合わせて社長が囁く。
「好きです……和希社長、だけ……」
俺の告白に社長は切れ長の目を見開いた。
「……ほんとに……? 咲」
「本当、です、和希社長……」
「社長という言葉は、いらない」
「…………和希……さん」
「……咲。……咲……」
形のいい唇で、長い指で、社長が俺の体を余すことなく触れていく。
さっきは全く反応しなかったのが嘘のように俺のそれは硬く勃ち上がり、甘い蜜を滴らせ、瞬く間に一度目のオーガズムを迎える。
その直後、まだ呼吸も整わないうちに社長の雄が入って来た。
健志郎さんよりもずっとずっと深くに。
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