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第62話 紫色の呪縛2
休日の朝、隣に社長がいないことを寂しく感じながら目を覚まし、一人だとあんまりおいしく思えない朝食を済ませたとき、スマホが着信音を響かせた。
午前九時過ぎ。
こんな時間に電話をかけて来るのは社長しかないと思ったら、案の定そうで。
『もしもし。咲? 今おまえのマンションに向かってるんだけど』
なんだか随分焦ったような声と口調で意外なことを言って来た。
「え? 今日はご実家の方で用事だったのでは?」
『そう聞いてたんだけど……いや、まあとにかく咲、今から行くから白いスーツを着て待っててくれないか?』
「???」
『じゃ、咲。頼んだぞ』
「ちょっ……和希さん?」
一体何が何だか訳が分からないままにも、俺は社長に言われた通り白いスーツに着替えるべくクローゼットを開けた。
約二十分後、俺は社長の車の助手席に座っていた。
運転席の社長は俺とは対照的な黒いスーツを身に着けている。
「和希さん? 一体何がどうなっているんですか? それに一体どこへ行くんですか?」
端整な社長の横顔に問いかけても、
「どうしても咲について来て欲しいところがあるんだ」
「どこですか?」
「着けば分かる」
詳細を教えてくれない。
社長はそのまま車を走らせ、着いたのは以前Ⅿ社社長の自叙伝の出版記念パーティが開かれたRホテルだった。
だが、ホテルのエントランスをくぐり、社長が向かったのはパーティが開かれた大広間ではなく、最上階にある高級レストランだった。
社長は俺の肩を強く抱き、レストランの中へと入っていき、一番奥にある個室の前で足をとめた。
社長がノックをし、俺たちは個室の中へと入る。
入った途端、そこが何の席か察することができた。心臓が鋭い爪を持つ手でつかまれたような痛みを訴え、体が強張る。
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