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第64話 呪縛が解けるとき

「俺は見合いをする気はありません。……俺にはこいつがいますから」  俺は社長に強く引き寄せられ、ほとんど後ろから抱きすくめられる形になる。 「和希さ……」  突然のことに頭がついて行かない。  それはほかの面々も同じだったようで、一瞬その場は水を打ったように静かになった。  その静寂を破り、第一声を発したのは社長の母親だった。 「あら。じゃ咲くん、うちの息子になるのかしら?」  驚いたことに社長の母親は俺たちのことを簡単に認めるような口調で呟く。  しかし当然のごとく他の面々はそういうわけにはいかなくて。 「おい、和希。いったいどういうことだ!?」 「和希? 咲くん? え? え?」  社長の叔父は顔を真っ赤にして怒り、父親は困惑し、俺と社長の顔を交互に見ている。  相手方に至っては茫然自失に陥ってしまっている。  俺もまたどうしていいか分からず、ただ立ち尽くすだけだ。  そんな俺を社長はさらうように抱き上げる……いわゆる姫抱きで。 「か、和希さんっ……」 「俺はもう咲と結婚してるような関係なので、他の誰とも、見合いも結婚もしませんから」  氷河期が来たかと思うほど凍り付いてしまっているテーブル席を前に社長は宣言すると、踵を返し、俺を抱いたまま個室から出て行く。 まるで以前見た古い映画のワンシーンのように。

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