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【ウラタロス】
玄関を開けると、部屋中にモモの香りが広がる。
全身を包み込む様に広がるその甘い香りに、ウラは目眩をおこしそうになっていた。
『やっぱり来るんじゃなかったかも』
と言う後悔の念に苛 まれながらも、とにかくモモを介抱せねばと靴を脱がす。
「ホラ先輩、しっかりして下さいよ」
言いながらも、世話を焼くのが幸せでならない。
「んあ~~」
とか、相変わらず酔っ払ったままではあるが、言いながら自分に全身を預けて来る事も、たまらなく嬉しかった。
なんとか靴を脱がせ、部屋の構造上、多分寝室であろう方向へ、肩を貸しながらヨタヨタと歩く。
まだ意識はあるらしく、なんとか自分でも足を出してくれるので、難無く寝室へと辿り着いた。
無意識下ではあったが、自分の部屋へ帰って来たと言う感覚はあるのか、寝室へ着くと同時に力が抜け、ベッドへと倒れ込む。
「あぁ~も~!そのまま寝ちゃったら、スーツがシワになっちゃうでしょう!」
ボヤきながらも、やっぱり嬉しそうにスーツを脱がせ、ハンガーに掛けてやる。
世話を焼ける事が、こんなに幸せだったなんて、すっかり忘れていた感覚だった。
キンとの同棲も、もう3年は経つのだろうか?
自然に出会い、自然に付き合い、流れでなんとなく同棲を始めたが“幸せ”よりも“義務”に似た感覚のが強かった気もする。
それにひきかえ、この人は‥‥
「不思議な人だなぁ‥」
ポツリ呟くと、寝かせたベッドの脇に座り込み、頬杖を付いてモモの顔を眺めた。
別段、格好良い訳でもないし、誰にでも優しい訳でもない。
むしろ仕事に関しては自分にも他人にも厳しく接しているのが当たり前な人だった。
『いつから、こんな気持ちになってたんだろう?』
自分でも分からないまま、ジッとモモを見つめる。
「先輩。」
届きそうで届かない、小さな声。
「せんぱ~い」
届くな。起きるな。
そぅ、ささやかに願いながら、“起きていない事”を確かめる。
「ん‥‥」
突然、モゾ。と動いたかと思うと、いきなり自分の手首を掴まれた。
かなり驚いたが、そうしただけで、起きる気配は全く無い様だ。
お陰様で心拍数は異常に上昇したが、それと同時に、妙な欲望までもが湧き上がってしまった。
「そんなに無防備だと襲っちゃいますよ~?」
と、やはり聞こえない小さな声で囁く。
静かに身を乗り出し、年の割には綺麗な肌をソッと撫でる。愛しくて愛しくてたまらない、モモの頬を。
「好き、です‥」
涙が溢れそうな程の熱い想いが、涙の替わりに口から零れた。
その言葉を追い駆ける様に、モモに口唇を近付けて行く。
が、息を感じられる程近付いた、あとほんの少しで触れそうな位置で押し止どまる。
「なんてね。」
無理矢理捻り出した言葉。
その言葉を頼りに無理矢理身を引き剥がすと、哀しそうな笑みを浮かべた。
「こんな事、僕に出来る訳無いじゃないですか‥‥。こんな‥」
無理矢理みたいな。
強姦みたいな真似をするほど僕は野獣じゃないし、先輩への想いはそんな安っぽい物でもない。
先輩の意識の無い時に手を出すなんて‥‥
僕に出来る訳無いじゃないですか。
こんなに、苦しいほどに焦がれる人は、他に誰も居ない‥‥
きっと今、強姦してしまうのは簡単な事だ。だけど、今そんな事で自分の欲求を満たしたとしても、明日は?その先は?
きっと先輩は、僕に対する信頼を失い、僕を避け、遠ざけ、永遠に手の届かない所へ行ってしまう。先輩との未来が、全て消え失せてしまうのだ。
そんな事、耐えられる訳が無い!!
だったら‥‥
だったらいっそ、このままの関係の方が良い。仲の良い、先輩と後輩で居た方がまだマシだ‥‥
ベッドの脇で、そんな激しい葛藤があったとは誰が想像出来ただろうか。
微塵も気付かなかったモモは、その隣で気持ち良く寝息を立て続けていた‥‥
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