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【リュウタロス】

オジさ・・・もとい。 “キンさん”に、彼のアパートまで連れて来られる。 初対面の僕を、こんな安易に自分の部屋まで連れて来るなんて、よほどのバカかお人好しなんだなぁ。なんて思う。 さっき会ったばかりなのに、信頼して着いて来る僕も、ある意味同類なのかもしれないケド。 疵の手当てをして貰ったついでに、ケンカを教えて貰う約束を交わす。 キンさん。 優しくて、逞しくて。 頭を撫でるでっかい手が、見も知らぬ父親を想わせる。 他人から与えられる優しさが、こんなに暖かだった事も初めて知った。 『帰りたくないなぁ』 自然と、そんな考えが頭を巡る。 「今日・・・、泊まってっても良い?」 施設に帰りたくない。てのと、もう少し一緒に居たい。って気持ちが、無意識に口から零れ出た感じだった。 「・・せやな・・・」 少し悩む様に(あご)に手を当てると、その姿勢のまま僕の方へ視線を移す。 「まぁ、時間も時間やしな。色々と危ないだろうから、今晩は泊まって行き。」 「やったぁ!!」 まるで子供みたいに両腕を上げて、素直に態度で表す。 こんな風に誰かの前ではしゃぐのも、随分久しぶりだ。 気が付けば、施設じゃもぅ自分が年長者になっていて、すっかり小さい子の面倒を見る側になってしまった。数少ない大人も、僕が15になった頃からもぅ大人扱いで、何を頑張っても当たり前になってしまって褒めてもくれない。 まだまだ甘えたいのに。って思うのは、僕の我儘なのかなぁ・・・ そんな事を頭の片隅で思い出しながらも、わざと子供みたいに振る舞う自分が居た。 「ただし、ベッドは1つしかあれへんからな。お前はソファやで。」 言いながらキンさんは、ベッドルームへ毛布と布団を取りに向かった。 「えぇぇぇぇ~~!」 その(かた)くなな背中に不満を思い切りぶつけてやったが、彼の心には届かなかった様で、抵抗空しく早々に寝かしつけられてしまう。 僕も僕で、ソファだと言うのにあまりにも居心地が良くて、数分で眠りに着いたらしく、気が付いた時にはカーテンから朝日が覗いていた。 凄く損した様な、でも心の奥の奥の方ではどこか幸せな、とても不思議な気持ちを抱えたまま身を起こした。 すぐにキンさんの姿を探すが見当たらない。 と、料理を作っているのか、どこかから良い匂いが漂って来る。 それに釣られてフラフラとダイニングキッチンへ向かうと、テーブルにはモーニングがセットされていた。 「キンさん起きるの早ッ!おじいちゃんなんじゃないの?」 半分寝ぼけながらもささやかなツッコミを入れると 「起きたらまず“おはよう”やろ?」 無愛想に返される。 「お は よ う ご ざ い ま す 。」 わざと滑舌(かつぜつ)良く返してやると、一度口元だけ歪める様に笑いながら 「おはようさん。 昨日は良う眠れたか?」 いきなり優しい声と表情に変わる。 「ずるぃ・・・」 こうやって自分のペースを崩される。 思い通りに行かないのに、それが逆に心地良くて胸が暖かくなるなんて。 なんだか凄く“大人”を感じさせるキンさんに、ドキドキした。 「ん?どうかしたんか?」 「なんでもないよ! 凄く熟睡しちゃった!安眠マクラとか使ってんじゃないの?」 ほら。またそうやって優しくする。誰かに気遣われる事に慣れてないんだから、どうして良いか分かんないよ。 凄く嬉しいのに、少し寂しい気持ちになるのは何故なんだろう? そんな事を聞いたら、キンさんは何て答えるんだろうか。 「安眠マクラは使ってないで。」 くすくす笑いながら、わざわざツッコミを入れてくれる。 「昨日の喧嘩の疲れとちゃうか?でも、『疵の痛みで眠れなかった』なんて事にならなくて良かったわ。 疵もたいした事無かったっちゅー証拠やな」 そう言ってまた、太陽みたいにゆるやかに笑う。 知らず知らずに、この笑顔が僕の弱点になってる気がしても、仕方がない事だよね? 心の中で独り言を呟くと、キンさんの手作りプチ焦げ不細工モーニングを頂く。 もちろん「いただきます」をしてからだ。 これから仕事だと言う、口うるさいキンさんの『見た目より味』な食事をした後、手早く準備をしてマンションの下で別れる。 「ほなな。気を付けて帰るんやで」 それだけ言うと、くるりと背中を向け足早に立ち去ってしまう。 また。 僕は背中ばかりを見てる気がする。 記憶の無いハズの幼い頃の自分。と、大きな大人の、遠ざかる背中。 僕はこの光景を、前にも見た気がする。 哀しくて、泣きたくなるようなこの胸の苦しさを、前にもどこかで・・・・ 「昨日の約束!忘れてないよね!!」 まるで(すが)る様に咄嗟に叫ぶ。 僕の存在を忘れてしまわない様に。 このまま、『さよなら』にならない様に。 「当たり前や!6時にアノ公園で待っとれ!」 振り向きもしないで手を振る背中を見送りながら 「絶対だよ!!待ってるからね―――――!!!!」 精一杯の声を張り上げて、見えてもいないのに両腕で大きく手を振り返した。 一度も振り返らない背中を、それでも“暖か“だと感じられたのは、きっと彼が“特別”だからだろう。 今まで知り合った大人達とは何かが違う、信用出来る何か。 それが“何”なのか分からないのは、きっと僕がまだ子供だから。 いつかその答えが見つけられる様に、『僕も早く大人になりたい』と、初めて思えた。 「・・・アノ公園か」 少し嫌な思い出があるけど、そんな事は今となってはもぅどうでも良い。 キンさんの姿が見えなくなるまで見送ると、僕は真直ぐ公園へと歩き出した。

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