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第2話

「七緒さん、話を割ってすまないが、いいかな。」 「あ、いえ、何でもおっしゃってください!殿村さん。」 「すまないが、御社とNT社のシステムの差別化が私の中でまだ出来ていない。長い前置きはなしで、一言で言うとどうなんだろう?」 「あ、えっと…。」 全く笑わずに、つらつらとどこか高圧的に殿村は言った。七緒が言い淀む。 「それは…うちの製品はデータ分析ができる所…かと。」 「でも、それならNT社にもありますから。」 「…そうですけど。その後のサポートもありまして…」 「サポートって…24時間?土日対応はどうなのかな?あとカレンダーのズレは?日本が休日でもヨーロッパは平日なんてざらですよ?そう言う時にシステムが止まった時のオペレーションは?グローバルシステムになるから、その辺の保守対応も、もちろん練ってきてくれていまくすね?祝日のズレも、サマータイム対応もある。」 「…。」 眉一つ動かさず、よくもまぁ…。 流石の質問責めに、七緒が黙る。殿村の部下も、殿村の厳しい質問に緊張している。 助け舟を出すか。でもまずは… 《ごめんなさい。仕事が忙しくて。また、夜に連絡しまふね。》 俺は断腸の思いで、殿村にメールを返信した。チラリとノートパソコンに視線を落とした殿村が、くすりと笑うのが見えた。 「殿村さん、その辺の保守設計はまたこの後に詰めさせてください。こちらとしても、勿論、グローバル対応もきっちりとさせて頂きます。」 俺への嫌がらせで、どうせ質問に意味はない。俺の回答に、殿村はお堅い顔こままで頷いた。 ピコンッ 《そうなんだ^_^ 急かしてごめんね。余りにも返事来ないから、ちょっと心配してたからさ。なら、良かった(o^^o)》 あぁしかし、こいつやばすぎるだろ。二重人格だ…。メールの殿村と現在進行形で目の前にいる殿村、違いすぎる…。 しかもこんな奴に会社のアドレスまで知られた上、大事な取引先のキーパーソンポジションで接さないとだなんて…。あんまりだ。 ピコンッ 《 〉連絡しまふね。 ←打ち間違いw可愛いねww》 「…。」 …うるせーな。 ———— 「はぁ、疲れた…。」 深夜、家に帰った俺はどさりと荷物を置き、ネクタイを解いた。 ブーブー 荷物を置いた時に飛び出したスマホが振動する。 どきりと、嫌な予感がした。 「…まぁ、とりあえず、風呂に入ろう!」 俺は絵に描いたような小者だ。強い人には逆らわない。嫌な事からは目を逸らす。 「はぁ、スッキリした。」 風呂上がり、俺はビールを片手にソファーに腰掛けた。 ブーブー 「…。テレビ、何やってるかな…。」 ブーブー 「…。」 ブーブー ブーブー 「…も、もう、寝よう…。そうしよう。」 ブーブー ブーブー ブーブー その日は悪夢をみた。 しかしそれから数日、通知が100件を超えたあたりから、流石に怖くなり俺は遂に開いてしまった。 《今晩は^_^》 《もう寝ちゃってるかな…。寝てたら、朝、連絡してね(^。^)ノシ》 《おはよう!碧くん。碧くんの返事を待てなくて、また俺から連絡しちゃった…。ごめんね(´・ω・`)》 ・ ・ 《なんで返事くれないの(^^)?》 《ごめん、今日も終電帰りだったんだね!それなら、仕方ないか!》 《今夜はゆっくり休んでね(^。^)》 ・ ・ 《今日は定時退社日でしょ(^^)?》 《夜、一緒に呑み行かない(o^^o)?》 《おーい!》 《連絡そろそろ頂戴(^^)》 《わかった。碧くんは意地悪されるのが好きなんだね。》 《それなら、碧くんの趣味趣向に、俺なら全力で答えられるよ(^^)》 《俺、虐めるの好き(^^)》 I や、やばい…。 何か、この(^^)ニコニコマークの裏に、静かな怒りが見える。 「おは…先輩?どうかしました?」 「え?あ、あぁ、おはよう。いや、大丈夫だ。」 会社に着いてすぐ、俺の顔を見た七緒が心配そうに声をかけてくれた。 「滝川くん。ちょっといいかな?」 「はい?」 どう返事をしようか。 悩んでいると部長に呼ばれる。 「あの、海南物産の案件どうなった?」 「あぁ、はい。先週、プレゼンも問題なく終了しました。」 「…感触、悪くはなかったか?」 「?い、いえ、そんな事無いですよ?」 怪訝な顔をする部長に俺は内心どきりとする。 《俺、虐めるの好き(^^)》 脳内で(^^)ニコニコ(^^)マークがピコピコと跳ねる。

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