2 / 15
第2話
「七緒さん、話を割ってすまないが、いいかな。」
「あ、いえ、何でもおっしゃってください!殿村さん。」
「すまないが、御社とNT社のシステムの差別化が私の中でまだ出来ていない。長い前置きはなしで、一言で言うとどうなんだろう?」
「あ、えっと…。」
全く笑わずに、つらつらとどこか高圧的に殿村は言った。七緒が言い淀む。
「それは…うちの製品はデータ分析ができる所…かと。」
「でも、それならNT社にもありますから。」
「…そうですけど。その後のサポートもありまして…」
「サポートって…24時間?土日対応はどうなのかな?あとカレンダーのズレは?日本が休日でもヨーロッパは平日なんてざらですよ?そう言う時にシステムが止まった時のオペレーションは?グローバルシステムになるから、その辺の保守対応も、もちろん練ってきてくれていまくすね?祝日のズレも、サマータイム対応もある。」
「…。」
眉一つ動かさず、よくもまぁ…。
流石の質問責めに、七緒が黙る。殿村の部下も、殿村の厳しい質問に緊張している。
助け舟を出すか。でもまずは…
《ごめんなさい。仕事が忙しくて。また、夜に連絡しまふね。》
俺は断腸の思いで、殿村にメールを返信した。チラリとノートパソコンに視線を落とした殿村が、くすりと笑うのが見えた。
「殿村さん、その辺の保守設計はまたこの後に詰めさせてください。こちらとしても、勿論、グローバル対応もきっちりとさせて頂きます。」
俺への嫌がらせで、どうせ質問に意味はない。俺の回答に、殿村はお堅い顔こままで頷いた。
ピコンッ
《そうなんだ^_^ 急かしてごめんね。余りにも返事来ないから、ちょっと心配してたからさ。なら、良かった(o^^o)》
あぁしかし、こいつやばすぎるだろ。二重人格だ…。メールの殿村と現在進行形で目の前にいる殿村、違いすぎる…。
しかもこんな奴に会社のアドレスまで知られた上、大事な取引先のキーパーソンポジションで接さないとだなんて…。あんまりだ。
ピコンッ
《 〉連絡しまふね。 ←打ち間違いw可愛いねww》
「…。」
…うるせーな。
————
「はぁ、疲れた…。」
深夜、家に帰った俺はどさりと荷物を置き、ネクタイを解いた。
ブーブー
荷物を置いた時に飛び出したスマホが振動する。
どきりと、嫌な予感がした。
「…まぁ、とりあえず、風呂に入ろう!」
俺は絵に描いたような小者だ。強い人には逆らわない。嫌な事からは目を逸らす。
「はぁ、スッキリした。」
風呂上がり、俺はビールを片手にソファーに腰掛けた。
ブーブー
「…。テレビ、何やってるかな…。」
ブーブー
「…。」
ブーブー
ブーブー
「…も、もう、寝よう…。そうしよう。」
ブーブー
ブーブー
ブーブー
その日は悪夢をみた。
しかしそれから数日、通知が100件を超えたあたりから、流石に怖くなり俺は遂に開いてしまった。
《今晩は^_^》
《もう寝ちゃってるかな…。寝てたら、朝、連絡してね(^。^)ノシ》
《おはよう!碧くん。碧くんの返事を待てなくて、また俺から連絡しちゃった…。ごめんね(´・ω・`)》
・
・
《なんで返事くれないの(^^)?》
《ごめん、今日も終電帰りだったんだね!それなら、仕方ないか!》
《今夜はゆっくり休んでね(^。^)》
・
・
《今日は定時退社日でしょ(^^)?》
《夜、一緒に呑み行かない(o^^o)?》
《おーい!》
《連絡そろそろ頂戴(^^)》
《わかった。碧くんは意地悪されるのが好きなんだね。》
《それなら、碧くんの趣味趣向に、俺なら全力で答えられるよ(^^)》
《俺、虐めるの好き(^^)》
I
や、やばい…。
何か、この(^^)ニコニコマークの裏に、静かな怒りが見える。
「おは…先輩?どうかしました?」
「え?あ、あぁ、おはよう。いや、大丈夫だ。」
会社に着いてすぐ、俺の顔を見た七緒が心配そうに声をかけてくれた。
「滝川くん。ちょっといいかな?」
「はい?」
どう返事をしようか。
悩んでいると部長に呼ばれる。
「あの、海南物産の案件どうなった?」
「あぁ、はい。先週、プレゼンも問題なく終了しました。」
「…感触、悪くはなかったか?」
「?い、いえ、そんな事無いですよ?」
怪訝な顔をする部長に俺は内心どきりとする。
《俺、虐めるの好き(^^)》
脳内で(^^)ニコニコ(^^)マークがピコピコと跳ねる。
ともだちにシェアしよう!