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第3話
「それがさ、小竹向さんから今朝メールがあってね。海外転勤になりました。今週末の壮行会ではよろしくお願いしますって。」
「?…はい。」
「うち、送別会には正式に招待されてないよね?」
「え、はい…。」
「それとなく聞いたら、NT社は呼ばれているらしいよ。」
「…。」
「暗に、うちとはもう契約する気ないって事かな?」
壮年の部長がしょんぼりと俺に聞いてくる。
「だ、大丈夫です。」
「本当?」
「はい。俺が海南物産さんから案内のメールを頂いていたのに、転送していなかったからです。」
「そうなの!良かった!海南物産が切れたら、今後、数億の損失になるからね!もー、びっくりしたよ。」
「…そうですね。びっくりしますね。本当、信じられませんね。」
俺は自分の席に戻ると、スマホを取り出す。もう殿村からの連絡はない。
自分が連絡しなくても、俺が連絡するでしょ。ってか…。
内心、恐怖と怒りが渦巻くが、このままでは不味い。
《殿村さん、連絡ごめんなさい。ちょっと話せるかな?》
《いいよ(^^)》
数秒とおかずに殿村から返信がくる。早すぎて、ちょっとひく。
《今夜、このお店予約したから。》
「…いつ…予約したんだよ…。」
そして直ぐにお店の情報が送られてくる。殿村の最初からこうなると全て分かっていたと言わんばかりの早い返信に、俺の恐怖が募る。
———-
「碧くん、お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
指定された店へ行くと、既に笑顔の殿村がいた。どんな如何わしい場所へ誘われるのかと警戒したが、殿村が指定した店は普通の洒落た居酒屋だった。
「まずはビールでしょ?頼んどいたよ!」
「…あの、連絡、すみませんでした…。」
「あははは、そうだね。またこんな事続くともっと虐めたくなっちゃうからさ…今後は辞めろよ?」
「…はい。」
最後だけやけにドスが効いてて怖いが、殿村は笑顔で俺の謝罪を受け入れた。俺はとりあえしおらしい姿勢をとる事にした。正直、ちょっとこの状況にも疲れているし、元々の強いものには逆らわない主義の本能がそうさせてしまう。
「はい、ビール。」
「…ありがとう。」
今度は語尾にハートをつけ、殿村は俺に笑顔でビールを勧める。とりあえず怒りは落ち着いているらしい。
ごくっ
「…。」
殿村は俺がビールを飲む姿を笑顔でガン見してくる。居心地悪いし。
「なんか、殿村さんって、会社と今じゃかなり違いますね。」
「あぁ、好きな人の前だからかな。」
「…。」
ごくり。
ちょっと照れたように話す殿村。俺は何の反応もする気になれず、ビールを飲み干した。
「ところで、小耳に挟んだんですが、小竹向さんの送別会はするんですか?」
本当は、コンペでうちを通して下さいとまでハッキリ言いたいが、そこまで言うと見返りに何を要求されるかが怖い。まずはここからだ。
「するよ。来たい?」
「い、行きたい!殿村さん、俺も、いきたい!」
「ははは。なんかえっち!」
「…。」
なんの話なのやら。殿村はニヤニヤと笑った。
「蒼くんがそう言うなら、お誘いしても良いけど…。」
勿体ぶってるな。これは何かよくない事考えてるな。
俺は次の殿村の言葉に身構えた。
「今日の碧くんの態度次第で決める。」
「え。…と、殿村さん、僕ら、健全なお付き合いをする友達だよね?」
馬鹿みたいだけど、真っ先にえっちな接待が頭に浮かび、俺は顔を引きつらせた。
「そうだよ!だから、まずは楽しくお話しようね!」
「…。」
ま、まぁ、ちゃんと相手すれば、良いって事だろう。今までろくに相手してなかったし。
それから2時間弱、俺たちは普通に飲んだ。
「あははは、楓くん、それはおかしいって!」
「ふふ、そうかな?」
そしてちゃんと話すと殿村は案外いい奴で面白い。酒も進み、すっかりほろ酔い気分だ。
「碧くんは?最近どう?仕事の帰り遅いよね?」
「うーん、ちょっと忙しい。でも仕方ないよね。俺の歳といえば、後輩も微妙にいて、急に結果も求められるようになるから、ちょっと大変だけどさ…それが頑張りどころ感あるし…。」
「ちょっとどころじゃなく大変そうだよ。」
「うん…。まぁ。」
確かに、連日連夜の徹夜、急に求められる結果…俺はこの所疲れていた。
「ふふ、碧くんは頑張っていて偉いよ。」
「え?」
「サボる人も居るのに、碧くんは頑張っていて、それだけでも偉いよ。その上、この前のプレゼンで、後輩のフォローもしっかり出来ていて、良かったよ。」
「…うん。ありがとう。」
「ふふ。当たり前の事だよ。」
ただでさえ酔いで赤い顔が更に赤くなる。こんなに面と向かって褒めて、労って貰ったのはいつぶりだろう。
部長はそうはっきり褒めてはくれないから…やっと誰かに認めてもらえたって感じだな…。……嬉しい。
純粋にそう感じた。
「毎度、会社の帰りに遅くまで頑張る碧くんが見えて、凄いなぁって思ってたんだ。」
「…でも、実際問題、楓の方が凄いよ。俺より2個歳上なだけなのに、もう役職持ちだし。」
「そんな比べないでよ。昇進なんて運もあるしさ。ほら、次、何飲む?」
「あ、うん。次は…。」
殿村に穏やかな笑顔で頭を撫でられた。俺はそれに抵抗もせず、促されるままに次の飲み物を頼んだ。殿村がそんな俺を見て、愛おしげに目を細めていた。
———
「碧くんの家ってここでいいの?」
「うん。そうそう!楓くんちょっと待っててね。今鍵あける。」
すっかり警戒心も無くした俺は、ニコニコと後ろにいる殿村に話しかけて鍵を開けた。
「よし、どうぞ……わっ!」
「あぁ、碧くん、碧くん‼︎」
振り向いた瞬間に殿村に飛びつかれ、よろけながら玄関に倒れ込んだ。そこでやっとボケた頭が正気を取り戻してくる。
「ちょっ、ちょっと、楓くん!俺たち、健全なお友達としてお付き合い中でしょ?あ、つまずいちゃったかな?」
俺は過去に青筋を立てながらも、誤魔化そうとした。
「碧くん、いっぱい俺の連絡無視したよね。」
「え、だって、それはもう…。」
「じゃ、服脱ごうっか?」
「え⁈け、健全な…」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと、罰として虐めるだけだから。」
どこか大丈夫なのだ。
殿村は依然として柔らかい笑顔で「大丈夫」と繰り返しながら、俺に手を伸ばす。しかし流石にここまで来れば、俺だって必死で抵抗する。
「碧くん。こんな事言いたくないけど、壮行会、来たいんだよね?」
「!」
その言葉を聞き、俺は諦めたように力を抜いた。
———
「うん。あぁ、碧くん、やっぱり似合うね。」
「ふっ」
あの後、全裸に剥かれた俺は拘束ベルトをつけられて、右足と右手、左足と左手をそれぞれ繋がれ、口も塞がれた。足は閉じれるが、ほぼダルマ状態で、ベッドに転がっていた。俺は殿村の視線から逃れて身を守るように、体を横向きに倒して縮こまる。
「はは、可愛いんだから、隠したらダメだよ。大丈夫。罰だからこんなふうに拘束するだけで、俺が愛する碧くんを傷つけることなんてしないよ。」
「ん゛〜!んん〜!」
殿村によって力任せに仰向けにされる。俺の全てを見て、殿村は更に興奮に頬を紅潮させる。俺はせめてもと、必死で足を閉じた。
これから一体、何をされるんだ。
「ちょっと待っててね。」
一度殿村が目の前から消えたと思ったら、次は風呂場から洗面器を持ってきた。
「碧くん、電動派じゃないんだね。」
なんの事?
「はい。足開いて〜。」
「ん〜ん〜!」
「はいはい。怖いね。怖いよね。大丈夫。大丈夫だよ。」
「ん…っ」
殿村はあやすように俺の頭を撫でたかと思ったら、その後、口枷の上からちゅっとキスをした。
俺はびくりと身をすくめた。
あ…あ…、や、やられる…。
「大丈夫だよ。」
「っ!」
ヒタリ
何かを下半身に当てられた。何かと思って見てみれば、髭を剃る剃刀だ。
「罰として頭丸めるとかあるけどさ、碧くんはこっちを剃ろうね。」
「ん゛〜!」
「暴れたら、切っちゃうから、大人しくしてね。」
「ふっ、んんっ、」
た、確かに…。
俺は剃刀の冷たい感覚にガタガタと震えて、固まった。
あぁ、もう。もう、会社の為にとか、仕事の為にとか、もうやめる。だってこんな、こんな身を犠牲にしてまで、仕事に尽す必要ある?
「よし。完了!」
明るく弾んだ声がして下を見ると、一矢纏わぬ自身が見えた。
…最…悪。
だが、これ以上に最悪な事はまだあるようだ。
「…な、なんか、見てたら勃った…。」
「むっ⁈」
幾分荒げた殿村の呟きに、俺はガバリと殿村の股間をみた。それ服の上からでもわかる程だ。
「はぁー、碧くん!碧くん…‼︎」
「ん゛ーーー!」
やたらハァハァとした殿村が、俺に覆いかぶさってくる。そして、べろりと口枷を舐め上げてきた。
俺はこれまでになく無茶苦茶に暴れた。
「…挿れていい?」
「んん゛⁈」
何を、何処に?だ、だめ‼︎だめだめ‼︎
俺はブンブンと頭を横に振った。
「そっかー…残念。ま、それは次だね。まだ俺たち友達だし…。」
次が決まったような言い方…。俺、これからどうなっちゃうの?ちょっと涙出てくる。
「じゃ、このままやろうね。」
「ふ⁈」
ぐちゅ
「はーはーはー、碧くぅん…っ、」
ぐちゅぐちゅぐちゅ
「ふぅぅ…っ!」
これは、なんだ。
殿村は自分のものと俺のものを合わせて、俺ののしかかりながら腰を動かした。目前に気持ち良さそうに、悩まし気な顔の殿村が迫る。整った顔が歪み妙な色気があった。
そして、巻き込まれ事故で俺まで妙に気持ち良いのがまた屈辱だ。
————-
「碧くん、罰ってこう言う事だからね。気をつけようね。」
やっと解放されて、くたりと糸が切れた人形の様に転がる俺を、隣に座った殿村は愛おしげに撫でる。
「あ、次の土曜日空いてる?」
「…空いてない。」
「本当?また嘘ついてないよね?」
「……空いてる。」
「あはは、何で嘘つくの?朝からどっか行こっか。でも金曜日が壮行会だから、お昼前からが良いかな?」
「…何でも良い。」
「そう?じゃぁ、折角だし、金曜日の夜からにしよっか。」
「…土曜日の昼前からでお願いします…。」
「ふふ、分かった。」
にこにこと笑っているのがまた怖い。俺も思わずビビって本当の事を言ってしまった。ここで寝るのは不味いと思いつつも、思わずうとうとと、そのままら寝てしまった。
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