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第5話

『はー、はー、はー、碧くん…もう、挿れるね?』 『え⁈ダメ!』 ベッドで殿村にのし掛かられる涙目の俺。何故か手の自由が効かない。殿村は既に息が荒く、いつもきっちりとセットされている髪が乱れパラパラと数本落ちている。 『ダメじゃないか、碧くん。そんなんじゃ矢野くんに負けちゃうよ。』 『え…。』 『ほら、碧くん…。力抜いて?俺に任せていれば、大丈夫だよ。…ね。気持ちよくしてあげるから。』 『…っ‼︎』 つい、一瞬だけ、殿村のチンケな脅しに体が殿村を受け入れてしまった。その時を狙ったかのように、ずるんっと質量のあるものが中に入ってくる。 その質量に俺はのけぞり、口をぱくぱくさせた。 『大丈夫、大丈夫。気持ちいいところだけ。そこだけ、重点的に突いてあげるから。』 『ふっ、あっあっ…‼︎』 そう言ってある一点をぐりぐりと刺激された時、俺の体に快感が走り抜けた。 き、気持ちいい!こんな、犯罪じみた行為なのに、気持ちいい…。 『ふふふ、碧くん、嫌々言っているけど、顔がとろとろ…。はぁ…可愛い…。』 『あ、うぁっ…〜〜っ、あ、やだ…あっ、…っ、き、きちゃう…なにこれ、くるっ…っ、ふぅっ……っ〜〜〜‼︎』 そんな俺を見て、薄く笑う殿村の顔が近づいてくる…。 「うわぁぁぁぁあ‼︎」 「う〜ん…。」 どっどっどっとどっ…! 俺はベッドの上で飛び起きた。心臓が飛び出そうな勢いだし、額には脂汗が浮かぶ。 な、なんだ…、さっきの世にも恐ろしい悪夢。生々しすぎる。 …ん? 「あれ?いつの間に?」 俺がいたのは、俺の部屋のベッドの上だった。 「…ま、まさか…。」 脳裏にぶわりと蘇る、あの生々しい悪夢。 「う〜ん…。」 「!」 隣で唸り声が聞こえ、俺は弾かれたように隣に目を向ける。シーツに隠れて見えないその影が、のそりと動いた。 「あ、先輩…。昨日は…」 「な、七緒⁈何で?」 「先輩…」 「…!」 ベッドから起き上がった七緒は、パンイチだ。よく見れば、俺もパンツしか履いていない。 ま、さか…。 「うぅ、せ、先輩…。」 俺が狼狽えていると、寝起きから覚醒した七緒はうるうるとした目で俺を見上げてきた。 「先輩…、責任、取って下さいね…。」 そして、七緒は俺を抱きしめて、絞り出すようなか細い声でそう言った。 「え、そ、それって…な…何?どゆこと⁈」 「…俺の口からはとても…。」 「‼︎」 七緒は苦し気に眉を寄せ俯いた。 えぇ…。 「で、でも、まさか…なぁ…?そんな事ないよな?」 「そんな事ありました。」 え。 「…ご、ごめん…七緒!本当にすみませんでした!…お、お互い、酒によっていたんだよな…?」 俺はベッドの上で頭を擦り付けて土下座した。 「…え?」 「七緒、本当にごめん。俺がやった事は許されない…。し、しかし、お互い酔っていたのなら、また明日から…。」 「そんなのダメでしょ。」 「っ!」 アセアセと弁明する俺に、七緒が冷たく言い放つ。 でも、確かに…。先輩である俺が明らかに悪い。…あぁ、でもこれってどうなるの?解雇?寧ろ、それどころじゃないよね⁈後輩に性犯罪って…社会的に…終わる。うでも元はと言えば自業自得だ。例え社会的に俺が終わっても、七緒が許せないならそれは、無かった事になどできない…。 「はい、先輩。チーズ。」 「え?」 カシャッ 七緒が何処からかスマホを取り出して、シャッターをきった。 「ほら先輩、いい感じに撮れました。」 何故か笑顔で、七緒が俺に撮った写真を見せる。 俯き気味に涙目の七緒と、ぽかんと口を開けた間抜けづらの俺。 …え?…なんか、おかしい…。 「ふふ、先輩、これ、労働組合にセクハラで持ち込んだら、先輩、解雇どころか、社会的に抹殺ですね!」 そして七緒は無邪気な可愛い笑顔で恐ろしい事を言う。写真の中の、涙目の七緒とはえらい違いだ。 「だからー」 ピンポーン 「碧くーん、ちょっと早いけど、来ちゃった。開けてくれる?」 「!」 と、殿村ー!最悪のタイミングだ…。 殿村が玄関からチャイムを鳴らしていた。 どうしよう…。よりによって、殿村…。 反射的にベッドから降りて玄関に続く廊下まで出ていたが、玄関に伸ばした手引っ込めて俺はそこに蹲り頭を抱える。 「碧くーん!碧くーん!」 ピーンポーン ピーンポーン 「碧くん?まだ寝てるのかな…。」 「はいはーい。今開けますね、殿村さん。」 「え。」 ガチャ 蹲ったまま唖然とする俺の横を七緒がパタパタと通り過ぎて、あっさりと玄関を開けてしまった。 嘘。なんで…? 「おはよう御座います。殿村さん。」 情事の後感を隠そうともせず、七緒が殿村にふわりと微笑んだ。 「………。」 「………。」 殿村は七緒と俺を見て表情を無くして固まり、俺は青い顔で固まる。 「…あ、用がないなら閉めますねー。俺と先輩は今…愛を確かめるとか、そういう最中なので〜。」 誰も動かない様子をくすりと笑って、七緒が軽い調子で扉を閉めようとする。 しかし、その扉を殿村が手を差し込み強引に開いた。

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