6 / 15

第6話

「…碧くん、これはどういう事かな?」 「え⁈…あ…は、はは、どういう事でしょうね…。」 「…。」 「ひっ、」 殿村は無表情のまま言うや否や、急に嘘っぽい笑顔を貼りつけて、ツカツカと俺に近づいた。 そして強引に俺の体を引き上げ壁に体を押し付ける。ギュムっと顎を掴まれた。その力の強さで、おれの口がタコの口のように尖った。 「…碧くん…それなら言ってくれれば良かったのに。」 「へ?」 「碧くんが擦れていない様子だったから合わせてきたけど、」 「ふぶっっ!…にゅっ」 殿村は言葉を区切り急に俺に口付けた。あまりの事の展開に無防備だった俺の口内に殿村の舌が滑り込み、ぐちゅりとかき混ぜられた。 「ふっ…。」 「朝からこんな淫行にはしるなんてね。それなら俺がどれだけでも相手するのに。」 「あ、はは…い、淫行だなんて…。」 「してないの?」 「ははは、淫行って、凄い言い方ですね。響きだけで卑猥というか、そんな言葉よく朝からパッと思いつく…」 「淫行だろがよ。したのか?」 「…。」 へらへらと笑って誤魔化してみるが、すっと笑顔を消した殿村に低い声で言われて俺は閉口した。 実のところ証拠はないけど、状況証拠はある。 …あれ?でもこれって本当にしたの?そもそも、俺がしたの?七緒がしたの?俺の体に違和感はない。 俺がオロオロと七緒に視線を向けると、追って殿村も七緒に視線を向けた。 「殿村さん、急に押しかけてきて、そんな下品な言葉辞めて下さいよ!先輩と俺は、もっとピュアで美しい愛を育んでいたのに…。」 「……はっ、」 殿村が鼻で笑うが、七緒はそれを余裕綽々と、寧ろ花を散らす勢いで笑っている。 こんな殿村に睨まれてその笑顔…凄いな七緒…。…この子こんなだったけ? 「…いや、まてよ。」 殿村はそんな七緒を睨んでいたが、ふと何かを思いついたかのように漏らした。 「七緒さん、彼のものはどうでした?」 「は?どうって…普通でしたけど?」 「ふぅん、普通ですか。なるほど?ふふ…」 殿村の質問に怪訝な顔をして七緒が答えた。 「あっ、やっ」 殿村は妙にニコニコとしながら、壁と殿村の間からモゾモゾと逃げようとしていた俺を強引に引き寄せ、七緒に向き合わせて後ろから拘束した。 凄く、嫌な感じ…。 「あの…と、殿村さん…?」 「俺の碧くんのものはこんな状態ですけどね。」 「「!」」 そして、ぐいっと俺のパンツを引き下ろした。晒される、一矢纏わぬ俺自身。 それを見た七緒が瞠目して、言葉を失う。 「や、やめっ、楓くん‼︎本当っ、離してっ…!七緒!見ないでっっ‼︎」 俺は暴れるが、殿村の手は緩まない。 「ふっ、どうしたんですか?その反応、行為をしたという割には、初見の様な驚き方ですね。」 「…。」 殿村が含み笑いで煽るが、今だ七緒は動かない。俺は殿村の手が緩んだ隙に急いでパンツを引き上げる。 顔から火が出そう…。 …?あれ、でも確かに。今の七緒の反応は不思議だ。まるで本当に初めて見たように固まっている。 カシャ カシャ カシャ 「っ、なんだよ!」 「別に。」 そして気づけば、殿村はパンツ姿の七緒をスマホで撮っていた。我に帰った七緒が怒りの声を上げる。 「やめろ!」 「折角だから、矢野さんに送ってあげようかと。七緒さんなんて、ただ、黙って、矢野くんのおかずにでもなっているのが相応しいですよ?」 殿村が冷たく言い放つ。七緒がぐっと唇を噛んだ。俺だけがぽかんとする。 や、矢野?おかず? 「あぁ寧ろ、そんなに朝から発情しているなら、矢野くんの家にこのまま送ってあげましょうか?」 「!黙れ!先輩と俺は、折角純な関係を育んでいたのに、お前が…お前が急に割り込んでくるから、計画が狂うんだよ!」 「はっ、純、ですか?こんな詐欺紛いな事をして…。」 ブツブツ言う七緒を、殿村が見下す様に笑った。そしてまたもや、殿村の手から逃げようとモゾついていた俺を後ろからぐっと引き寄せる。 「ふっ…ぁっ」 殿村は俺の耳に舌を差し込み、見せつけるように大袈裟な音を立てて俺の耳にキスをした。 耳に、音が大きく響く。 耳は弱いんだよ…。 鳥肌を立て、俺は思わず変な声を漏らす。 そして、殿村は片方をするすると俺のパンツの中に滑り込ませた。 「ふぅ、やっ、ぁ」 堪らず変な声が出て、俺はばっと自分の口を塞いだ。殿村の手を引っ張るが、口を塞ぎながらではろくな抵抗にもならない。 やわやわと刺激され、俺は顔を真っ赤にして震えた。 気づけば、そんな俺を七緒が食い入る様にして見ていた。 「碧くんは俺のだから。俺の特別な人だから…。そうだよね?碧くん?」 「…っ、ふっ…っっ!」 「だから、お前は失せろ。」 「…。」 そして俺に甘く囁いた後、俺に頬を寄せたまま殿村が七緒を睨みつけ言い放った。 ———— 「さて、碧くん、さっきのは何かな?」 「ちょ、ちょっと楓くん、なんで?結局、俺が被害者だったんだよね?なのに、何でこんな…。」 不味い、これでは、あの悪夢が現実になってしまう…。 殿村が七緒を追い返した後、俺はずるずるとベッドまで引きずられた。そしてベッドに仰向けにころがる俺の腹の上に跨った殿村に、俺は両手を縫い止められている。殿村はニコニコと俺に迫る。 「うん。そうだね。碧くん、可哀想に…。俺が慰めてあげるね!」 「え?い、いやいや!大丈夫、ありがとう…。強いて言えば、今はそっとしておいて欲しいから、その、帰ってくれると…」 「それにさ、」 「…あ、はい。」 「あんな輩が碧くんの周りにいるとなると、俺としても不安だよ…。」 殿村は心配そうな顔をした。 そう言うのいいから、俺を労る気持ちがあるなら、即刻、帰って欲しい…。 「だから、もう俺とやっちゃおう!」 「………え?」

ともだちにシェアしよう!