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第10話

「碧くん、何してるの?」 「…友達と遊んでいます。」 「ふぅん。友達と〈デート〉なんだ?」 「ほ、本当に!友達だよ。あの…健全な関係の友達です。」 「はは、本当かなぁ…?」 「…。」 殿村はニコニコと話す。 いつものこのニコニコ笑顔が嘘くさい。実際嘘だろ。 「碧くん、2枚になったね。」 「は?」 「イエローカード2枚、レッドカードだね。」 「え…。」 「宇野さんとはこの後すぐに分かれて、うちに直行してね。」 「え、あの…そ、それは…。でも、1ヶ月後の約束…。」 「碧くんはそんな事言える立場なのかな?」 「………ていうか、宇野さんは友達ですから…。健全な友達だし…。そもそも友達とも遊べないって、おかしくない?いや、おかしいだろ!そこまで干渉されても困る!」 「……。」 そうだ。おかしい。うん。おかしい! 俺の「おかしい」発言に、殿村は笑顔のまま黙った。 よし、これだ。これで行こう!だって、おかしいだろ!束縛酷すぎだろ‼︎ ガタンッ 「ひっ」 「碧くんは、そんな事、俺に言える立場なのかな?」 「あ、うっ、す、すみません…。あっ、…っちょっと、今のは言い過ぎました。すみません。」 殿村は嘘笑顔を貼り付けた顔で、長い足を伸ばし、ぐりぐりと正面に座る俺の股間を刺激した。俺は思わずびくりと殿村に謝る。 「で、でも…ぅっ、本当、宇野さんとは本当に、健全な友達なので…っ、」 「はは、被虐趣味。顔、赤っ。」 「うぅっ、ちがっ、ほんとっ、や、やめてっ…っ」 被虐とかそんなのじゃなくて、こんな直接的な刺激、気持ち良いに決まっているだろ! 俺の声が上擦り、殿村が馬鹿にしたように笑う。 テーブルの下で俺と殿村の虚しい攻防が繰り広げられた。 「クロワッサン買えたよ〜!」 「!」 「それは良かったね。」 宇野さんが帰ってきて、俺と俺の股間はやっと殿村から解放された。 俺はハァっと息を吐き、殿村は何事もなかった様にコーヒーを一口飲んだ。 「課長にも買ってきたので、お1つどうぞ!」 「ありがとう。」 殿村が笑顔で笑いかけるから、宇野さんは殿村の笑顔にちょっと恥ずかしそうに顔を赤くした。 「は、はい…、滝川くんにも買ってきたよ。」 「ありがとう。」 これまでの社内での殿村を見るに、こんな笑顔レアだろうからな…。騙されてるな…。 「滝川くん、この後どこ行く?」 「どこへ行くのかな、滝川さん。」 「……。」 宇野ちゃんの質問に、何故か殿村ものっかり聞いてくる。 さっき家に来いって行ったのには、お前だろ!…いや、だから聞いてくるのか…。 「ど…どうしよっか…?」 「そうだね〜。ここからなら、品川の水族館か…上野の美術館近くていいよね〜。」 「……。」 俺の回答が気に食わなかったらしい。殿村がすっと笑顔を引っ込め、片眉を上げるのが見えた。 「あ、今、上野で古代エジプト展やってるって。いいな〜、ちょっと気になる。」 「そ、そだね…。」 「…。」 もはや、じとりと俺を睨む殿村に気が気でない俺、宇野ちゃんの話が頭に入らない。 動揺で震えそうだ。 「エジプトと言えば、現代と文化もかなり違うし、面白そうだね。流石宇野さん、いい選択するね。」 ところが、急に黙っていた殿村が口を開いた。俺は冷や汗を垂らし、殿村の声に耳を傾ける。 「ふふ、そうですよね〜!その辺りって神秘的な世界で面白いですよね!」 「そうだね。古代エジプトは色々な文化発祥の時代だし…。特に美意識が強く意識され始めた時代で、より人間が人間らしくなった時代だよね。」 「へー!そうなんですか!」 「そうそう。あと、美意識から脱毛文化が発展したのもその時代かららしいよ。」 「脱毛?」 「眉毛以外は全て処理とかも割と一般的だったらしいよ。アンダーヘアも全部。」 「あはは、本当ですか。」 …嫌な予感がする…。 俺は縮こまって黙り、必死で平静を保ちコーヒーを啜った。 「欧米でもその処理は一般的だけど、日本人にはちょっと不思議な感覚だよね。」 「そうですね〜。あはは、脱いでそこの毛がないと…ちょっとびっくりですね。」 「ははは、そうだね。びっくりだね。」 「…。」 「びっくりだって。滝川くん。」 「!」 「え。」 突然話を振られて、俺は一驚を喫する。 「…あ、うっわ!ごめん、宇野さん、会社から連絡が入ってる!本当ごめん、俺、ちょっと抜けるね!本当にごめん!」 「あ、う、うん。大丈夫だよ。」 何処と無く、宇野さんが不審そうに俺を見るが、俺は逃げる様にその店を出た。 ———-/ ツカツカツカツカ… 「よく出来ました。」 「…。」 宇野ちゃんと別れ、駅のホームで電車を待っていると、後ろから来た殿村に急に引き寄せられて頭を撫でられた。 「ふっ、今日はいっぱい気持ちよくしてやるからな。」 …何故、急に雄感だしてきた? 殿村にそう言われても、俺は恐怖しか感じない。 もはや死んだ魚みたいな目になっている俺の手を引き、殿村は電車に乗った。

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