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第12話

超えてはいけない一線というもは何にでもある。 殿村との一線はあの日だった。 「ふっ、ん」 「あぁ、可愛いっ!今、碧のがきゅんってなった!」 「あっ、ちょっ、〜〜っ!」 一回やってから、殿村は遠慮をなくしたらしい。しつこい。泊まりに行くと、というか無理矢理連れ込まれると、大体いつも襲われる。 「もう、やだっ、はっ…っぅ、やめて…っ!」 「無理。」 「〜〜っ!」 そして碧の体も徐々に慣れて、最近やたら気持ち良くてそれが怖かった。 自分の中にある、今までの自分が塗り替えられていく。 ベッドの上、後ろから碧を攻めていた殿村は、逃げる碧の体を強引に引き戻してまた律動を強めた。その刺激に碧の腰が砕けると、殿村は引く腰を引き上げこれ幸いと更に好き勝手に動く。 「はぁっ、好き!碧くん、碧、碧…!好きっ!」 「うぅ〜っ‼︎もう、やめて…っ」 殿村は腰を打ちつけながらも、器用に碧の項に口付ける。 「あっ、やっ、あっ、あ、また、く、くるっ〜〜っ!もう、むりぃ…っ」 「ふふ、碧くん、無理じゃないでしょ。はっ、気持ち良い時はっ、ほら、教えたでしょ?」 「〜〜っ!」 「ほらっ、言えって。」  心持ち声を低くした殿村がぐりぐりと碧の一番弱い所を攻めた。 「っ‼︎‼︎あ、ごめっ、あっ、ごめんなさっ!あ、気持ち、良い、気持ちいいですっ〜〜〜っ!」 不味い事に、殿村による碧のメンタル支配も確実に進んでいた。 満足気な殿村の吐息が聞こえ、へたり込んだ碧の腰を再び抱え直す。殿村はまた続けるらしい。碧はその快感に歯を食いしばり耐えた。 「碧、幸せだね。」 そんな碧にまた挿入し、震える背中にキスを落とす。 殿村は幸せらしい。 「はぁ…もう、だめだ…。腰が保たん…。死ぬ…。」 「先輩、俺に乗り換えますか?」 「…いや、どっちもどっちだろ。あ、七緒、それ以上こちらに寄るなよ。」 出先からの帰り道、ひょこひょこと腰の痛みに耐えて歩く碧に、七緒が可愛い声と顔で売り込みをかけてくる。 ダメだとは思うが、こんな相談七緒にしか出来ないものだからつい愚痴ってしまう。 「もー、俺は殿村さんみたいに、鬼畜じゃないのになぁ〜。」 「いいんだよ。殿村とは、コンペまでの仲だ。コンペが終われば、もう下手に出る必要はない!元々、担当は七緒だし、俺は只のサポート役だからな。コンペ終わり次第即刻、プロジェクトを外してもらう。そして、殿村とは速攻で縁を切る!」 「今もそんな下手に出る必要もないのにー。」 手を伸ばす七緒を払い除けながらオフィスに帰ると、エントランスに見知った顔がいた。 「あれ、野中先輩!」 「おぉ、偶然!滝川じゃん!」 「いてっ」 すらりと高い身長に、優しい笑顔。大学時代の研究室の先輩である野中だった。野中はにかりと笑い、碧の肩に自分の腕を絡めた。 「はは、なんか滝川ひょろくなったな!」 「え、そうですか?」 「…。」 野中は昔から距離感が近い。今も笑いながら腹をワサワサと触ってくる。 そんな碧達を七緒がむっとした顔で見ていた時だった。 「先輩、エレベーターきましたよ!」 「ちょっと、君達。そこをどいてくれるかな。」 「あ」 戯れる碧たちの後ろには、部下を従え眉間にシワを寄せた殿村が居た。 碧は不機嫌な殿村の顔を見て、咄嗟に宇野ちゃんとのことを思い出した。 また変に勘違いをされてはたまったものじゃない。 「たっ、只の知り合いの野中先輩!俺たち健全なお友達なのに、学生時代以来たまたま会ったから、つい嬉しくて、気持ちが上がってしまい、学生時代のノリで近づきすぎましたね!邪魔なので退けましょう!」 「え?あ、おう。」 「…。」 碧があせあせといきなり大声で話すので、野中は面食らった顔になる。殿村は、そんな碧達の横を無表情で通り過ぎ、そのままエレベーターに乗ってしまった。 と、殿村は、どんな顔をしていたんだ⁈ 「…はぁ…縁を切るとか言ってるわりに、どんだけ飼い慣らされてるんですか。」 殿村が去った後もソワソワする碧に、七緒が呆れたように呟いた。そしてエレベーターのボタンを押し直した。

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