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第13話
「902円になります。」
「クレジットでお願いします。」
今日も深夜残業だ。
今月も基本給を残業代が超えるかもなぁ…。
夕飯を買ってオフィスに戻りながら、そんな事を考えていた。そしてぼんやりしたままエレベーターに乗り込み、碧は自分の階のボタンを押した。
「お帰り、碧くん。」
ガタンッ
「うわ出たっ!」
そして自分のオフィスフロアに着くと、笑顔で仁王立ちの殿村がいた。残っているのは碧の他数人程度で、照明も半分落とされて暗いエレベーターホール。そんな中でこんな…もはやホラーだ。
「《うわでた》とは、どう言う意味かな?」
「…あ、いえ、なんでもありません…。」
「碧くん、昼間の男は何?」
「あー、やっぱり。いえ、あれは唯の大学の先輩です。野中先輩と言います。」
やっぱりか。ほらきた。
殿村がニコニコと投げかけた質問に、碧は内心うんざりとしていた。
殿村は基本的に残業をしないし、ましてやうちのフロアにいるはずなんてない。わざわざこの話の為に来たのか。暇でもないだろうに、暇な奴だな。
「あのー、正直に言います。」
「うん。そうした方が身の為だよ。」
「っ、宇野ちゃんに下心はありました。」
「…。」
「だ、だけど!野中先輩には全く興味ありませんから!」
殿村の唯ならぬ雰囲気に、オーバーな身振りを付けて碧は弁明する。しかし対する殿村は笑顔で僅かに首を傾げただけだった。
「へー…本当?碧くん、懲りずにすぐ嘘つくからな。」
「…いや、本当ですって。」
「ふーん?」
「…うっ」
ニコニコと殿村が碧ににじり寄る。
「じゃ、碧くん、うちの会議室取ってるから。そこでプレゼンして。」
「え。」
そう言って殿村は碧の腕を掴みエレベーターに引き摺り込む。
碧は前に壮行会で殿村が言っていた変態プレイを思い出して青くなった。
「そこで、その…へ、変な事しない?」
「はは、何それ。可愛いな。虐めたくなるから、下手な事言うなよ。」
こいつ!やる気だ!
殿村はニコニコと笑顔のまま腕を組み、碧を見もせずに答えた。
どうしよう…会社で、もっと言うと取引先の会議室でとか、嫌過ぎる!死ぬ‼︎
どうにか、どうにか…。
「楓」
「…なに?あ、」
碧は殿村の顔を引き、強引にキスをした。殿村の目が見開かれる。
「俺は、楓が、好きです!大好きですっ!」
「……。」
「だから、他の奴にとか…あるわけないだろ?」
「……。」
碧の必死の言葉に殿村は無表情だ。
これ、どういう感情⁈
「ね、楓…。」
「…た…。」
「え?」
「勃った!」
「は?……えぇ⁈」
「碧くん!何それ⁈可愛すぎでしょ!愛おしい過ぎるよっっ!」
「えー!」
殿村は鼻息を荒げて、碧の肩を掴む。もはや目が興奮で血走っている。
碧は殿村の勢いによろけた。
「さっ、速攻で!会議室行こう!ほらっ‼︎」
「嫌っ、嫌嫌ー!誰か!助けてっ‼︎」
無情にもエレベーターが海南物産の会議室フロアに止まり、エレベータードアに必死で掴まる碧を殿村が無理矢理引き剥がした。
幸いと言うのか微妙だか、こんな深夜に会議をしている人はおらず、このフロアには碧達だけだった。
「っ、ひっ、本当、やめてっ!楓くん!流石に不味いって‼︎」
半ば転がるように会議へ押し込められた。そのせいで転けて蹲る碧に殿村は覆いかぶさり、乱暴にワイシャツの間から手を差し込む。
「ふっむっ…!」
すっぽり殿村の下に収まり震える碧に、殿村は強引にキスをした。
「あっ、か…っ、楓くんっ!ほらっ…、お、俺、楓くんとすると、気持ち良すぎで色々、で……出ちゃうから…」
「‼︎‼︎そうなの⁈分かった!もっ、直ぐに出させてあげるね、色々!」
鼻息荒い殿村がベリっと音がする勢いで碧の体を反転させ、スラックスを脱がせ始める。
「いやいや‼︎だから、会議室汚したら不味いって話!あっ、」
いつの間にかたくし上げられたシャツの下に殿村が顔を突っ込み、胸を舐める。じぃんと快感がこみ上げ、殿村を抑える手が緩む。
「はっ、大丈夫。碧くんのにも、ゴム付けるから。」
「いや、そういうっ、んんっ…っ‼︎」
殿村が碧の言葉を遮りキスをした。
しつこいキスが終わると体を起こし、何やら懐から出した袋を口で切る。
…ゴ、ゴムやん!
「っ、」
碧はとっさに殿村を蹴り上げ、ずり下げられたパンツを引き上げて逃げ出した。
「どこ行くの。」
「あぁ‼︎ごめんなさいごめんなさい!本当、無理無理無理無理‼︎」
しかし呆気なく会議室の扉前で掴まり、逆にドアに押さえ込まれる。
「俺も、」
「うっ、」
ぐりゅっと殿村のものが押し付けられた。綺麗な顔に似つかわしくない、雄雄しいそれだった。
「これで我慢とか無理っ」
「っ!」
結局、やられた。
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