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第14話
「俺は変態じゃないのに…。」
「先輩、ほんとちょろいですね。どうして俺が落とせなかったんだろう…。」
そして再び、例の如く七緒に愚痴ってしまった。
会社近くのカフェで七緒は呆れた声を出す。
「まぁ、大丈夫ですよ、先輩。俺は先輩が殿村にどんなに汚されても、傷物になっても見捨てません。先輩の帰るところはあります!」
「…。」
俺はじとりと熱く語る七緒を睨んだ。
傷物って…。
やはり、こいつもどこかつき抜きけた変わり者だ。
七緒はあれ以来、碧の前で本性を晒すようになった。その本性は真っ黒だった。口は悪いし、達観しているが故に物事を斜に構えて物事を見ている。だが、恋愛は純粋なものに拘りがあるらしい。訳が分からないし、碧が思うに七緒と殿村はそう変わらない。七緒もあと数年後は殿村の様になるのではとすら思う。七緒の出世も最速だろうしな。
ブーブー
「うわぁっ!」
「いや先輩、会社からの電話ですよ。ちゃんと表示見てください。もー、毎度ビクついて…ほらっ、殿村さんじゃないですよ。」
「…ぁ、本当だ。はい、もしもし、滝川です。」
「はぁー…。」
「え?今日中ですか⁈」
「?」
ホッとしたのも束の間、結局悪い知らせだった。システムの納品日誤りがあって、今日中に納品しろというものだった。
それからはバタバタと時間が過ぎてあっという間に深夜になってしまった。
ブーブー
先程からスマホがしつこくなっている。きっとまた殿村だろう。しかし今はあんな変人に構っている暇はない。
碧はスマホを無視して黙々と手を動かした。
「よしっ、先輩、レビュー終わったら納品準備をして終わりです!」
「はー、良かった!長かったなぁ…もう、12時過ぎちゃうな。」
「ですね…。」
なんとか最後のレビューも終わり、深夜一時前には家に帰れそうだった。
問題はそんな時に起きた。
「先輩、追加機能分のマニュアルがないです…。」
「え?いやいや、ほら、あるぞ?」
碧はぺらりと、印刷した書類を碧に渡した。
「いえ、中国語版と英語版の方です。」
「…え。」
そうか、この顧客は中国企業で、中国語と英語でもマニュアルを出せと言われていた。最後に翻訳して貰うつもりが、抜けていた…。
「先輩、俺、英語は出来ますけど。」
「うん。だよな…。…問題は中国語だよな…。」
ごくりと、七緒と碧はその場に固まった。
七緒は帰国子女だから、英語は堪能だ。しかし中国語となると厳しい。ネットの自動翻訳を使う手もあるが、自動翻訳はしばしば文法がくずれるので、顧客への納品物では言語に精通した人間がチェックする事になっていた。
「…七緒、俺、社内に残っている人間で探してくる。すまんが、先に英語版の作成頼む。」
「分かりました。」
碧はスマホを手にオフィスを出た。
中国語か…。営業部のリンさんとかいると良いんだけど…。
ブーブー
スマホがまた鳴っている。
「…。」
しかし深夜帯12時過ぎ、居室内の照明すらほぼほぼ付いていない。
碧は冷や汗を垂らして社内を見渡した。誰もいない。
ブーブー
ちらりとスマホを見るとやっぱり殿村だ。
《碧くん、なんで出ないの?そろそろ本当に心配だよ。》
《何かあった?》
殿村は海外行っていたし、そもそも海南物産の課長で…。
ブーブー
殿村が赴任していたのは欧米か?中国か?
《大丈夫じゃないよね?》
ブーブーブーブー
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