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第3話

「トイレ行ってくる」 「じゃあ、俺コーラ」 「俺もー!」 「トイレだって…」 4限が終わると友人に声をかけて教室を出た。 廊下は走ってはいけない。 だけど、昼前の廊下はすぐに混んでしまう。 自販機のある玄関前だけ、とっとっと足早に駆ける。 「…っ!」 調理実習をしていたのか調理室から美味そうなにおいがするが、それより気になるのは先を歩く人。 4棟トイレに向かう渡り廊下に見慣れた、だけどいつもより細い後ろ姿を見付けた。 脚なげぇ 手首がえっちぃ 格好良い 後ろ姿だけでも惚けてしまう。 顔が見えなくても格好良い。 俺の、恋人なんだよな 何度咀嚼しても心中にやにやが止まらない。 中庭に面した窓から入る光が埃をキラキラ輝かせ、埃さえ恋人を引き立てる物へと変わる。 ここは清らかな学舎だというのに甘さを含んだ息を吐いてしまいそうだ。 色恋ばかりにうつつを抜かしていたら目標に追い付けない。 いくら恋人がえっちぃと言ってもそれは目標の長岡にも失礼だ。 気を付けなければ。 外廊下に出ると、その人は背後の自分に気付いているらしく後ろを見つつ小さく微笑んだ。 流された視線の艶やかさ。 セットされた髪や着崩す事なく着用しているスーツの堅さが担任の先生だという事を強く主張しているのに、その微笑みのやわらかさは恋人のもの。 胸がきゅぅっと締め付けられる。 ドキドキする。 校舎脇に伸びる雑草さえ色鮮やかにしてしまうほどに。 俺の恋人はとっても格好良い。 ぶんぶんと揺れる尻尾をそのまま4棟トイレへ入った。

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