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第4話

腕を引っぱられ閉じ込められたのは、決して広くはない個室。 だけどその方がくっ付けて良い。 じっと見てからふにゃふにゃ笑う三条を前に、長岡も教師の仮面を外した。 今は、この瞬間だけは恋人同士だ。 職場での、学校での秘密の逢瀬。 バレてしまわない様にスマホのメモ帳機能を使って静かに喋る。 『そのスーツとても似合ってます。 格好良いです』 『褒めてもなんもねぇよ』 『写真撮っても良いですか?』 長岡は、じっと楽しそうな顔を見てからスマホに触れた。 『構わねぇよ。 恋人特権な。 でも、俺にも撮らせてくれ』 『制服ですか?』 頷く恋人に頷き返す。 よくよく考えてみれば長岡と制服で写真を撮る事は少ない。 学校行事関連で一緒に数枚撮ってもらったが、あれは担任の顔をしている。 恋人として一緒に写真を撮れるのは単純に嬉しい。 嬉しそうに頬を緩める三条の頭を長岡も嬉しそうな顔をして数度撫でた。 気持ちの良い手に口角が更に上がる。 『帰りの時間はまた後で連絡する』 ちゅ、と前髪に唇をくっ付ける担任は、教師の顔をしていなかった。 部屋と同じ顔。 だけどいつもの様にだらりとしていなくて、見慣れないブラックスーツが格好良くて、いつにも増してドキドキする。 冷たくて大きな手が頬から耳へと大きく撫でた。 髪が隠していたそこへリップ音がくっ付く。 「っ!」 人差し指を口の前に立てながら子供みたいな顔をする担任は、その顔のままキスをしてきた。 触れるだけのキス。 だけど、恋人同士のものだと分かるキス。 此処がトイレだと忘れてしまう。 ぽわっと頬を染める三条は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうにはにかんだ。 その愛おしい事と言ったらない。 長岡が三条を溺愛しているのを差し引いても、恋人にこんな反応をされたらたまらない。 今度は頬へと長めに唇をくっ付けられた。 あ… 離れていく形の良い唇に三条は意を決する。 少しだけ踵を浮かせると口の端にちゅぅっとキスをした。 やわらかく細められる目が綺麗な色を映す。 とても、綺麗だ。 教室に戻る頃には自販機前も空いてるだろう。 頼まれた飲み物を買って行くかと思うほどにご機嫌だ。 だけど、もう少しだけ恋人の時間に甘える。 細い腰周りに腕をまわした。

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