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第5話
「正宗さん、おかえりなさい。
お邪魔してます」
「ただいま、遥登」
相変わらず格好良い恋人に、ぶんっぶんっと大きく尻尾が揺れてしまう。
主人が帰ってきたと嬉しそうに足元にじゃれつく愛犬の様な三条に長岡の教師の仮面は消え失せた。
穏やかな表情は日中見ていたものは真逆のものだが、とてもよく似合っている。
三条も堅苦しいジャケットは脱ぎ、ワイシャツにカーディガンと学校では見られない軽い格好をしている。
今時の学生らしい年相応の姿も、こうして放課後以降に会う時しか見る事が出来ない。
なんとなく得したなと思う。
「おかえりだけ?」
「……おかえりなさい」
チュ
満足そうな恋人の笑顔に三条もはにかむ。
長岡に触れられるのは好きだし、キスも好き。
自分から唇をくっ付けるとこんなにとろける顔を見せてくれるのも好き。
そっと背中を押されながらリビングにもどるといつもより明るい部屋に、長岡は小さく笑った。
恋人が待っていてくれているだけでこれだ。
どんだけベタ惚れなんだ、と。
それは三条も同じさっきより鮮やかになった部屋が嬉しかった。
お互い口には出さないが、きっと恋人もそうだと根拠のない自信があった。
長岡が手洗いうがいを済ませている間に、三条はローテーブルに拡げていた課題を鞄に片付ける。
待っている間に粗方課題も片付いた。
これで帰ってからは予習が出来る。
プリント類はファイルに挟みペンケースと一緒にまとめ、消ゴムのカスをゴミ箱に払い落とす。
すべてを鞄に詰め込みと丁度よく長岡がやって来た。
チャックを閉めてこちらも終わり…。
「遥登、おまたせ」
蛍光灯の光が陰るのとどちらが早かったか気が付けなかった。
え、と声も出せないままソファにどさりと押し倒された。
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