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第27話

「はー、やっと2人っきりになれた」 部屋に入ってまず驚いた。 外見の割りに……と言うと失礼なのだが綺麗だ。 リノベーションをしたのか壁も木目を貴重としていてあたたかみがあり、大きなベッドの白いシーツはパリッとして清潔感がある。 以前訪れたホテルより高級そう。 「綺麗…」 「あぁ、綺麗だろ。 ちゃんと明るくてやらしくねぇし平気か?」 「はい」 鞄をソファにおろし漸くだらりと落ち着ける。 帽子を外され、ぺたんと潰れた髪をくしゃくしゃと直した。 「ほら、手ぇ洗いに行くぞ。 飯はその後な」 荷物を下ろすや否や何時もの様に手洗いうがいをしようと部屋の奥に進む。 短い距離だが手を繋いで歩くのが嬉しくて楽しくて、ほんの少し緊張が緩んだ。 この冷たくて大きな手は長岡だとすぐに分かって好きだ。 「こっちもすごい…」 洗面台もお洒落だ。 水受けが鉢になっていて、こちらも白を貴重として清潔感がある。 鏡も水垢がなく綺麗。 ガラス張りの浴室の中は大きな浴槽がどんと構えていて、平均身長を優に越した2人でも余裕で入れるサイズだ。 興味深そうに隅々まで見る三条に、長岡は更に言葉を続けた。 「この部屋は違げぇけど、他の部屋にはジャグジーもあんだって。 今度はそっちも泊まろうな」 「ジャグジー」 「そ、浴室テレビも完備。 長風呂すんのも楽しそうだろ」 泡風呂も楽しかったが、バブルの風呂も好奇心を刺激する。 長岡とテレビを見ながら長風呂もすごく魅力的だ。 そういえば、卒業した高校近くのラブホテルは露天風呂があると言っていた。 生徒や職員が近くに住んでいる為利用は控えるが心引かれるらしい。 長岡は風呂が好きなのだろうか。 温泉旅行だってそうだ。 沢山湯に浸かった。 「風呂、好きなんですか?」 「ん? 普通だよ。 1人じゃシャワーで済ませてばっかだから、こういう場所では入りてぇのはある。 あと、風呂なら遥登を誘いやすいしな」 誘いやすい…? 横を見ると、やっぱガラス張りはエロいなと言ちながら言葉を続けた。 「裸が恥ずかしいっつっても風呂なら裸の方が当たり前だ。 遥登の照れもベッドより薄いだろ」 そんな事まで考えていてくれたのか。 いつも先を考えてくれる大人な恋人。 どうしたら三条が居心地よく出来るのか、不安がらないのか考えてくれる優しい人。 繋いだままの手に力を入れると、やわらかな笑顔が返ってきた。 「そうだ、シャンプーなに使う? ある程度だけど選べるから飯のついでに電話する」 「シャンプーですか?」 「あ、無料だから気にすんな。 貸出しだよ」 「でも、そこにありますよね?」 「女性客用と、一部の客はにおいでバレたらやばいからだろ。 浮気してる時点で糞だけどな」 「辛辣ですね」 「糞は糞だろ。 好きな奴裏切ってまで複数人に愛されてぇとは思わねぇ。 何事も言えるけど、想像力がなきゃそれは動物と同じだ。 折角、想像する事が出来んなら泣かせんな。 ま、俺が言えた事でもねぇか」 「そんな事はありません…っ」 繋いだままの手に力を入れて違うと伝えた。 それだけは伝えたい。 だって、俺は今とてもしあわせだ。 それは曲げる事の出来ない事実。 誰かに迷惑をかけた訳ではない。 “正宗さん”と“俺”の話だ。 「俺の恋人はすげぇ可愛いし格好良いし、他なんて見えねぇな」 鼻がぶつかる距離まで近付いてきた綺麗な顔にドキッとした瞬間、唇を奪われた。

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