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第29話

「釣られる前から成績良いの知ってんだぞ。 絶対に4位以内にいたよな」 「そんなの覚えてるんですか…?」 「すげぇなって覚えてただけな。 だって、あんな事された後でも4位だったろ。 あれがなきゃずっと3位だったのに、悪かったな」 「そんな……」 謝る事ではない。 そんな事で心を乱し勉強が手に付かなかった自分のせいだ。 社会人になれば、夢を叶え教師になる事が出来れば、心を取り乱し授業を疎かにするなんて出来ない。 長岡だって授業に関しては普通に進めていた。 自分の心が揺らいでしまったのが原因だ。 だけど、綺麗な目が哀愁を帯びた。 そんな顔して欲しくないのに。 長岡が笑うだけでしあわせになれる事を、本人は知らないのか。 世界が素晴らしく見えるのを知らないのか。 「悪いって思ってるなら、……キス、してください」 甘やかす言葉に長岡は眉を下げ頬を撫でてくれた。 大きくて冷たくてすぐに長岡の物だと分かる、この手が好きだ。 この手を知れて良かった。 知らずに生きる事がなくて、本当に良かった。 「ん、勿論」 「沢山、してくれたら…嬉しい、」 チュ すぐに長岡の唇がそれを塞ぎ最後まで言わせてはくれなかった。 すぐに離れていった唇がまたくっ付いて、今度は唇を食むように動く。 息が出来るように何度も離れ、何度もくっ付く。 俺は、ちゃんとしあわせだ。

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