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第30話
隣に寝転ぶ三条から清潔なにおいがする。
シャンプーや柔軟剤の様な家庭のあたたかいにおい。
三条によく似合っていて良いにおいだ。
だけど、自分のにおいを纏う恋人もすごく良い。
寒くはないが腕の中に閉じ込めた。
「あったけぇ」
されるがまま大人しく抱き締められる三条の髪に鼻を埋め心地良い体温を存分に楽しむ。
いや、堪能する、の方がしっくりくる。
「子供体温さいこー…」
「本当に汗くさくないですか…?」
「全然。
遥登のにおいしかしねぇ」
寧ろ、それすら“遥登のにおい”で良いんだが。
本人に言ったら風呂に入りたいと言われてしまいそうなので口にはしない。
折角のにおいが勿体ない。
自分の部屋のベッドより大きくて2人が横に並んでも十分なスペースがある。
それでも、いつもの様にくっ付いているのが良い。
さらさらの髪が気持ち良くて何度も触れるた。
梳けば指の間から溢れるそれ。
癖がなくて真っ直ぐで本人に似ている。
触り心地が良くてずっと触れていたい。
後頭部の髪を撫でていると小さな笑い声が聴こえてきた。
「首のところが擽ったいです
へへっ、へへへ」
なんか良いよな
遥登って感じがする
折角のラブホテル、それもベッドの上だが色気のないまだ少し幼さを残した笑みを見せる。
だが、その穏やかな声がとても心地良い。
この子の隣で生きていたいと思うには十分だ。
身体に染み入っていく。
腕の中から顔を出し笑うその唇に同じものを重ねた。
「っ!」
今さっきもしたというのに顔を真っ赤にした恋人が愛おしくてたまらない。
コロコロと表情を変え、笑ったと思ったら照れ、もっとキスをしたらまた笑う。
なんてしあわせなんだ。
「慣れねぇな」
「そんな、ことは…ありませんよ」
「最初はガチガチに緊張してたから少しは成長したのか。
あ、でも、キスは上手くなんなよ。
下手くそなのが良いんだからな」
貶されているのか褒められているのか分からず複雑そうな顔をする三条に触れるだけのキスを何度も繰り返した。
唇だけでなく、頬や目蓋、額。
「目蓋は擽ったいです」
「敏感だな」
「違います…」
赤くなった頬に手を滑らせ、親指で撫でれば赤みは更に増す。
日焼けしない肌はすぐに赤くなり、それもコンプレックスだと本人は言うが、可愛らしいと思う。
血流、つまり心臓が本音を伝えてくれている。
全身で好きって言われたら、誰だってたまらない。
そうだろ。
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