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第33話
メニュー表を取りに行こうと腰を上げた長岡の向こうに、そういえば聴こうと思っていた物があった。
恥ずかしい話だが、キスに夢中で聴くのを忘れていた。
「遥登、なに食う?
カレーうどん…どうした…?」
「あの……あれ、なんですか…?」
三条の指さす方には不思議な器械がある。
器械と形容するのも合っているか分からない物。
棚の一部に透明なパイプが縦に埋め込まれている。
一見してそれが何か分からない。
まるで配水管や空気構の様だが、その途中には開閉出来そうな箇所か見受けられ太さもそれとは違う。
一体なんだろう。
「あぁ、エアシューター。
俺も本物はじめて見た。
此処からフロントに行かず清算出来んだよ」
「エアシューター…。
空気で動くんですか…?」
「吹き矢の原理らしい。
俺もよくは知らねぇけどな。
お釣りも返ってくるぞ」
管の中からカプセルを取り出し、その中に料金を入れる。
再度、管の中にセットしボタンを押すと飛んでいく仕組みらしい。
三条は近付くとマジマジと眺めたり、説明書のカードを読んだり興味深そうにしはじめた。
今だけは羞恥心より持ち前の好奇心が勝っているらしい。
隣に並び活字に視線を滑らせると長岡も止まらない。
すべての活字を読みたくなり背中を屈めた。
「昭和っぽいよな」
「会わなくて良いんですね。
すごい…」
上下の棚─そちらには開閉扉が付けられている─を開け中を覗き、そっと管に触れた。
「宿泊にしてるけど、延長して延長料金此処から払うか」
「無駄遣いは駄目です。
俺だって半分出したかったのに…」
「安いから良いっつってるだろ、学生。
たまには大人に甘えろ」
「いつも甘えてますよ…」
「もっとだ。
遥登に甘えられると嬉しいんだよ」
だから、今日は目一杯甘えてくれとその手を絡めとってキスをされた。
「またそうやって……」
「嫌か?」
「もっと、して欲しい位には…好きです」
「かわい」
顔を隠す髪が耳にかけられ真っ赤になった肌を見られてしまう。
耳まで真っ赤になっているのにそれを隠す事より長岡の手を握ったまま。
手の方が本音だ。
陰るのと同時に耳に降ってきたリップ音に心臓が跳ねた。
「やっぱ飯より遥登とイチャ付きてぇな」
「……イチャ、付きますか?」
「んー、食ってから。
折角のラブホなんだし色々楽しみてぇだろ」
だけど少しだけと抱き締めさせてくれ、と抱き締められる。
濃い恋人のにおいに三条も少しの間、我慢を決めた。
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