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第35話

「正宗さん…」 「おいで。 本当に飯だよ」 「っ! 本当にカレーうどんだ…」 浴室から戻ってきた三条はくりくりした目を嬉しそうに輝かせた。 長岡は隣に座るように促し今し方届いた丼と割り箸を机に置く。 カレーうどんを前にして、先程まで不安そうにしていた三条の表情もやわらかいものへと戻った。 それを見る長岡もやっぱりこの顔が良いと先程よりずっと穏やかな顔をしている。 「あるっつったろ。 伸びるから早く食おうぜ」 並んでソファに腰をおろすのはなんだか不思議だが嬉しい。 あぁ、でもやっぱり、並ぶと顔が見られないのは残念だ。 だらりと背中を丸めて食べる姿も好きだ。 修学旅行で見た背筋をまっすぐに伸ばした姿も好きだから、長岡ならなんでも見ていたいの方が正しいのだが。 「丼も熱いから気を付けろ」 「はい」 水滴のついたラップを外しゴミ箱へ。 美味しそうに湯気をたてる丼から食欲そそる美味そうなにおいが部屋いっぱいに広がっていった。 三条の嬉しそうな顔を見て長岡は更に表情をやわらかくする。 「美味そうだな」 「はいっ」 「酒もあるけど、どうする」 カレーうどんにアルコール、それも炭酸を飲むのはなんとなく気が引ける。 誕生日はクリスマス、正月の様な祝いの食事の時ならまだしも…なんて思ってしまう。 首を横に振るとコンビニのビニール袋からお茶が差し出された。 出掛けてすぐに寄ったコンビニで飲み物を沢山買っていた時はこんなに飲むのかと思ったが、食事の時用だったようだ。 「んじゃ、こっちは後で飲もうな」 「はい」 目の前に差し出されたお茶を笑顔で受け取り“後”の約束まで取付け上機嫌。 「んじゃ、食うか。 いただきます」 「いただきます」 手を合わせた三条は、長岡が口にしたのを見届けてから同じものに手を付けた。 熱々のそれをしっかりと冷まし啜る。 ふわっと香る出汁のかおりと旨味にスパイスの刺激が足されなんとも美味い。 長岡の作ってくれるカレーには負けるが、ホテルの─それも万人が入る事の出来ないラブホテルの─メニューなのは勿体ないと思える程だ。 「ほんとだ…っ。 美味しいですっ」 「まだフードメニューあるから足りなかったら注文しような。 つぅか、絶対足りねぇだろ。 ピザもあんだってよ」

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