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第73話
早朝に出れば人目は少ないだろうと思ったが案外年配者が散歩を楽しんでいて、三条はキャップを目深に被りシートに深く沈んでいる。
それでも、助手席に座ってくれ頬の筋肉を緩めた。
「こんな時間だしコンビニ寄ってくか。
コーヒー飲みてぇな」
「はい」
部屋の近くまで行けば、朝から開店している薬局があるのでそこで飯の材料を買えば良いだろう。
それより今は外デートを楽しむ方が良い。
海の方へとハンドルを切り、わざと遠回りをする。
「ちょっと遠回りして帰ろうな」
「はい」
住宅街を走り抜け目の前がパッと明るくなると、隣から、あ!と嬉しそうな声がした。
運転席側の窓を開け車内に風を入れる。
風が髪を乱そうとも気にならない。
恋人の前ならありのままでいられる。
教師である事も、男である事すら忘れて1人の人間として居られる事がこんなにも心地良いなんてな。
「海のにおい!」
「寒くねぇか?」
「大丈夫です」
窓を開けて、磯のにおいを胸いっぱいに吸い込む。
塩辛いにおい。
思わず海水の味を思い出してしまう。
「正宗さんと海、すごく似合います」
水面が顔を出したばかりの太陽の光を反射して、キラキラ輝くのが恋人の端正さを引き立てる。
太陽まで引き立て役にすると言えば、長岡は一笑した。
「そんな褒めてくれんのかよ。
たまには海に来るのも良いな」
「山も似合いますよ」
「山も行くか?」
「正宗さんとなら何処でも楽しいです」
「ラブホも楽しかった?」
「……はい」
「えっちぃ事ばっかしたのにか」
「…………正宗さんと、だから」
「そりゃ良かった。
帰ったらハメ撮り観ような」
「っ!!」
くるくる変わる豊かな表情も快晴を引き立て役にしている。
澄んだ青空と少し湿った海風。
それを存分に浴びながらデートした。
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