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第6話
やめようと何度か途中で言ってみたが、柊は聞かなかった。
「オレじゃ勃たないか、どうしたらシてくれる?」
逆に詰め寄ら、神崎が返答に窮するほどだった。
実際、男相手に欲情するかと不安しかなかった神崎だったが、押し切られるように始めてみればそう悪くはなかったのだ。
上がる息を必死で押さえようとする柊の姿はなかなかそそるものがあるし、逃げ出しそうになる身体を懸命に堪えるのも健気で可愛いらしかった。程よく筋肉がついた綺麗にラインの整った身体は、キメも滑らかで、若々しい張りもあって肌触りは上等だった。
遊び慣れた女たちの香水の匂いであるとか、媚びた仕種であるとか、較べるとあまりの差異に新鮮な驚きさえ覚えた神崎だった。
大丈夫なのか、この人は…。
前戯の最中だってあまりにも恥かしそうに反応を押し殺すから、こちらは悪いことでもしているような気分になって、本当に撫でるほどしか触れることができなかった。
なのに早く挿れろと必死に縋ってくる様子に急かされ、お座なりに愛撫を施しただけでやるせない思いとともに神崎は柊に押し入った。
もう少しじっくりと時間をかけて彼を高めてやればよかった。
彼が嫌がっても。
かみ締めた唇から、こらえ切れないようにくぐもった声が洩れる。
血の気が引いて、頬が青白い。
終始眉根を寄せ、きつくまぶたを閉じている柊の内に浅く穿ちいったまま、神崎は身体を止めた。
はっはっと短く切るような息遣いを耳にしながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「痛い?」
ふるふると首を横に打ち振って、促すように神崎の背を引き寄せる。
「…ぅごいて、へい…き…」
とても平気は思えない。
まともに欲望も昂ぶりきらぬ身体のまま、妹の代わりに男に抱かれて。
辛くて、怖くて、哀しくて堪らないはずだ。
これ以上、時間ばかり長引かせても酷なだけだろう。さらに加えて神崎だって我慢も限度だった。『先っぽだけ』とはよく言うが、これはなかなか辛いものがあるのだ。
「――柊さん」
声の熱さに気がついたのか、柊が僅かに目を上げて、戦慄く声を搾り出して訴える。
「…っ、ねがい、だから」
背中にきつく爪が立てられる。
迷いながらも、神崎はゆっくりと目下の青年を犯していった。
「ぅ……く、あ」
柊の眦にジワリと涙が滲む。
軋むほどきつい。濡れない器官は拒みながら、強引な力に負けて神崎のモノを受け入れていく。
「あ…ぁ」
女とは違う。
見知らぬ感覚に戸惑いながらも、熱く締め上げられる甘美さにそれはひときわ威容を増す。内部で膨れ上がる存在に、怯えたように肉筒が窄まった。
「んっ!」
思わず柊の唇から零れる苦鳴。
柊も苦しいだろうが、神崎だって切ないものを感じて胸が痛くなる。彼が憎いわけではない。泣かせるような仕儀に及ぶのはけっして本意ではないのだ。
深く含みこませ、なるべく辛くしないように揺すりたてた。それでも小さく柊は呻く。かみ殺しきれないで。
「もう少しだけ…」
応えを待たずに腰を進めた。
きゅうと眉根を寄せた柊をこれ以上見ているのは耐え難くて、自分を高めるためだけに雑に性器を抜き差しし、狭い部分に絞られるまま、堪えることなく達した。
「うぅっ――!」
掠れた悲鳴とともに開かれた瞳がいっぱいに涙を孕んでいる。まるで神崎を責めているようだった。
「ぁ…ぃ」
熱いと、おそらく自分の内に放たれたものを感じているのだろう。結局苦痛以外、なにも彼に与えられないまま最後の一滴までを抱きしめた身体の奥に注ぎ込んだ。
たった一筋。右目の端を零れた涙に、神崎は唇を寄せた。柊が瞼を伏せる。
「……すいません」
緩く頭が左右に振られる。
神崎はそっと身を引いた。まだ萎えきってはいないものを抜き去ると、柊は小さく身を打ち震わせた。つられるように流れ出すものが、気持ち悪かったのだろう。
「ゴ…メン」
簡単に始末してやると、吐息とともにそう言われ、神崎は目線でなにがと問うた。
「あんまり…快く、なかっただろ…」
肉体的に快くなかったとは言わないが、精神衛生上楽しめたとは言えない。
男同士だからその辺は隠しようもない。
それでも神崎はいいえ、と否定した。
「快くなかったのは、あなたのほうでしょう」
途中で触れた柊の性器は竦みあがっていた。
オレのことなんてどうでもいい、小声でそう言って、彼は体を起こそうとするから神崎は止めた。
「どうしました?」
「シーツ、新しいのを…汚した、から」
身の内から零れたものを恥じるかのように、柊は唇を噛み締めた。
「そのまま寝ていなさい。朝になったら俺がします」
「でも…オレが、してくれって……頼んだから」
「柊さん」
「…だって」
「じっとしてないとダメですよ」
閉じ込めるように抱きしめた。神崎の腕の中、まだ納得できない顔をして彼は身を捩る。
気が強いというか。意地っ張りというか…。
こんな状況でなにを突っ張っているのだろうかと、もどかしささえ感じた。
おそらく自分が隣にいたら、一晩中全身を緊張させているに違いない。もう少しだけ傍にいたいような気もしたが、さっさと自室に引っ込んでやったほうが彼のためかもしれない。
いや…それどころではないだろう。
神崎は真剣に考えた。
この調子では、自分がこの部屋を出た途端に彼はあたふたとベッドを整え始めるだろう。
それはなんとも申し訳ない。
「ちょっと待っていてくれますか」
言いながら神崎はベッドを降りる。振り返ると柊はそそくさと床に落ちた服に手を伸ばしていた。
「おとなしくしてて、動かないで」
「で、でもその…あの」
じりじりと服を拾うべく指を伸ばす。
「動くなと言ってるんです。わかりませんか」
精神的、なにもり身体が辛いはずだ。
その証拠に身じろぎするたび、眉間にシワが深々と刻まれている。
今更ながら悔やみつつ、神崎はあえて冷たく言い放った。
「言うことを聞いてくれないなら、こちらにも考えがあります」
「え!?」
柊は、はっと身を硬くした。神崎はここを先途と渋い顔を作り、
「実家に帰らせていただきます」
そう告げると、柊は慌てふためき、わかったわかったわかりましたと、上掛けの下に大人しく収まる。
噴きだしたいのをようやく堪え、神崎は部屋を出て行った。大急ぎで濡れタオルをいくつか用意して寝室に戻る。柊はおとなしく横たわったまま、ちらりと神崎を見た。
「お利口にしてましたね」
ほっとしたあまり、つい子供を褒めるみたいな口調になった。とたん柊は唇を尖らせ上体を起こしかける。
「馬鹿にするな!」
そのくせイテテと呻いてまたシーツに沈み込むものだから、神崎は笑いをとめられなかった。
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