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ツグハル
凪さんのご実家。
と言う事もあり、やや緊張もあったが、先にご挨拶をしておいて顔見知りになっておき、第一印象を良くして後々信頼を得られれば、凪さんを嫁に頂く時に障害は少ないだろう。
てのが、俺の戦略だった。
成果は上々、と言った所、か‥‥?
が、
何故か肝心の凪さんの表情が暗い!
何でだ!?
俺、なんかミスったか!??
これまで完璧にサポートして来たつもりだし、なるべく気持ちもバレないように上手く振る舞って来たつもりなのに!!
折角気持ち押し殺して‥‥‥
まさか
アレ
聞こえちゃってた?
凪さんが田舎に帰る宣言した後の、俺も着いてく宣言した後の。
抱き締めちゃった勢いで漏れちゃった告白。
『あいしてる』
いやでも、顔を服に埋めてたし、声もちっちゃかったし、口の動きだってほとんど開いてない位の幅だったし
何より今の今まで何とも無かったじゃん!
色々ぐるぐるぐるぐる巡っているうちに
「あれ?そごに居んのは、もしかしで凪が?」
凪さんご実家のブロック塀の向こうから、毛深いオヤジが首を伸ばして覗き込んでいた。
瞬間。
凪さんの表情が パッ と明るくなる。
「ぉ~!みっちゃん!久しぶりだな!
まだ焼げで黒ぐなったんでねが」
凪さんの訛 り。
初めて聞いた。
!!かぅわ‥‥‥
―じゃなくて
きっと彼はご近所さんで
小さい頃からの凪さんを、父親の様な気持ちで見守っていて
久しぶりの帰郷を喜んで出て来てくれ‥‥
「なんだお前ぇ。やっぱ帰って来たのが♪
したら俺んトコさ就職すっか?
凪だったら無条件で採用すっぞ?」
ガハハとゴリラみたいに笑うソイツに
「ば~か
お前、いくら幼馴染みでも、俺が採用基準を満たしてるかどうかぐらい長い付き合いで分かるだろ。足手まとい増やしてどうすんだよ」
寂しそうに返す凪さん‥‥
て
今、
オ サ ナ ナ ジ ミ って言いました!?
じゃぁこの人‥‥
オッサンじゃないの!???
どう見ても30代に見えるゴリゴリのオッサン‥‥基 。みっちゃんさんは、陽に焼けて色黒だったせいで気付かなかったが、中々に清淡な顔立ちをしていた。
こんな展開は全く想定してなかった!
幼馴染みって事は、もしかしてコイツも凪さんを‥‥‥
あり得る。こんな可愛くて綺麗で純真無垢な凪さんが、子供の頃から傍に居たら誰だって‥‥‥
またそうしてぐるぐるしていると
「で、だんじゃ 、にしゃ 」
目線をギロリとこちらに向けて警戒するみっちゃんさん。
バチリと視線が合う。
もぅ、それだけで確信。
この人も凪さんが好きだ。
幼馴染みって言うからには、きっと俺より根深く。
でもそんなの、好きだった時間の長さなんて関係無い。
いや、正確に言えば、俺やみっちゃんさんの想いよりも、凪さんの想いの方が重要で‥‥
どっちが振り向かせられるか。ってのが本当の勝負なのだ。
と、その前に
「だんじ‥‥?
なに?」
言葉の意味が全く理解出来ない。
東北弁恐るべし‥‥‥‥!
「お前は誰だ、だって」
凪さんの通訳でようやく理解出来た質問に、遅れ馳せながら自己紹介する。
「以前の場所でお世話になってました。
鹿島嗣治と言います。
この度こちらに引っ越す事になりましたので、どうぞよろしくお願いいたします」
言いながらまた、頭を下げる。
常識ある社会人として。
「ふぅん」
さも面白くなさそうに、興味無さそうに呟くと、
「高柳満智 」
端的に自分のであろう名前を名乗って、押し黙ってしまった。
ちょっと‥‥恐い、かも
軽く萎縮した俺を余所に、みちさんはすぐに凪さんの方に向き直ると
「凪お前ぇ、実家さ戻んのげ?」
「いやそれが、そごの鹿島くんど一緒に住むんだど」
凪さんへの質問に、お父さんが割って入る。
周知の仲、てのを見せられた気がして、ちょっと心臓の辺りが焦れた気がした。
「んなっ!」
刹那。
驚愕の表情に変わるみちさん。
「おっちゃん、ソレ許したんけ!?」
少し声を荒げながら、ぐるりと塀を回って詰め寄って来るみちさんの姿からは、やっぱり幼馴染み以上の感情が見て取れた。
「んだ。
こだ良い青年は、最近じゃながなが見掛げねぞ」
にかっと笑顔で俺を推薦してくれたお父さんに、心の中で思わずガッツポーズ。
「おっちゃんソレ、騙されでんでねのが?
都会の人間は信用なんねがらよ~」
横目で俺を見ながら、怪訝 な表情を浮かべるみちさんに、今度は凪さんが味方してくれる。
「嗣治くんは、俺が辛い時に支えてくれた恩人だよ!みっちゃんは、俺の恩人を疑うのかよ!何だよお前、こないだまでそんな奴じゃなかったのに!」
あぁ凪さん。そんな風に俺を想ってくれてたなんて!
お父さんが見てなければ、今すぐ抱き締めたいくらいだよ!
‥‥いや、なんならその先まで‥‥v
邪な妄想をしていたのがバレたのか、みちさんが俺を更にキツい目で睨む。
「みんなを上手ぐ丸め込みやがって‥‥」
「丸め込むって‥‥」
思わず出た言葉にも聞く耳を持たないみちさんが、次に発した言葉は
「じゃぁ証明しでみせろよ!
どうせまだ住むドゴも決めでねんだべ!!??
だったら俺んドゴのアパートさ住め!
俺が常に監視しででやる!」
だった。
「監視!?
俺の所、って‥‥‥?」
事態がうまく飲み込めていない俺に
「みっちゃん、この辺の不動産王の息子なんだ。
今は一部の不動産を継いで、自分で経営もしてる‥‥
まぁ、遣り手っちゃ、遣り手なのかな?」
「ええぇぇえ!???」
このゴリラ‥‥じゃなくて、みちさんが!???
全くイメージが湧かない‥‥‥
「俺の敷地内でなら、さすがに悪さ出来ねぇべ」
ふん。と鼻息一つ。誇らし気に胸を張り、まるで勝利宣言。
「誰がそん「良いよ!」凪さん!」
そんな理不尽な場所。と答えようとしたのに、言葉を遮り勝手に了承される。
「別にヤマシイ関係でも無いし、嗣治くんの人柄を証明出来るなら、そんくらいたいした事じゃ無いね!」
凪さんまでもが鼻息荒く向かって行ってしまうものだから
「分かりましたよ‥‥‥」
俺も渋々了承する事にした。
あ~あ。
俺の計画もここまでか。
出鼻 挫 かれた感も否めないけど、凪さんと暮らせるだけ、幸せだと思うしかない。
いや実際幸せだけども。
にしても惜しかったなぁ~
夢のらぶらぶスウィートLIFE‥‥‥‥
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