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「おじさん、着がえ終わりましたー?……っ」
一息吐いて、男の様子を窺う。と、むっちりした尻と長い脚がいきなり視界に飛び込んで来たものだから、俺は中途半端に振り向いた体勢のまま固まった。
ちょうど下着を履くところだったらしい。此方に背を、というか尻を向けて、ボクサーパンツに爪先を通している。ゆっくりとした動作に合わせて隆起する筋肉と、太腿から足首へと這う刺青がやけに艶めかしい。肉厚な尻がグレーの布に覆い隠されていく。サイズが合わない所為でぎゅっと食い込んで、視覚的に肉感が解る所為で返っていやらしい。腰でふりふり揺れる尻尾も誘っているみたいだ。
相手は筋骨隆々の大男なのに、本当に俺の頭はどうなってしまったのか。自分の正気を疑いつつも目が離せない。食い入るように見詰めていると、男が怪訝な面持ちで此方を見る。
「……何か?」
「!!え、い、いやその……服、やっぱりきつそうですね?!」
「ん……少し。でも、大丈夫」
焦り、苦し紛れの問いを投げる。いやなんで焦ってるんだ俺は。男同士だろ。
混乱する俺に気付いているのかいないのか、男はTシャツの裾を軽く引っ張ると、何事もなかったかのように着がえを再開する。
渡したTシャツは俺が着れば太腿が隠れるサイズだが、この巨躯にはまるで寸足らずだった。割れた腹筋は辛うじて布に隠れているものの、分厚い胸や肩は布がはちきれんばかりに伸びている。パツパツに膨らんだ胸筋のラインが布の上からでもはっきり見てとれた。
というか、どうしてパンツより先にTシャツを着たのか。お陰で無駄に動揺してしまったじゃないか。
責任転嫁甚だしい悪態を脳内で吐きつつ、俺は必死で笑顔を取り繕う。
「これでもウチで一番大きいのを出したんですが、足りませんでしたね。あんたの服ももう着られそうにないですし、後で調達しましょ。ズボンは履けそうです?」
「ああ……少し、短い。でも、入る」
一応、ウェストを紐で調節できるジャージを渡して置いたが。着がえ終えたようなので改めて眺めれば、確かに腹回りは問題なさそうだ。
ただし、足の長さに対して丈がまったく足りていない。引き締まった脚は膝近くまで露出しているし、やっぱり全体的にパツパツだ。
寸足らずの服を着た筋肉兎耳男は、頻りに左右を振り返っては腰の辺りを触っている。何をしているかと思えば、どうやら尻尾が服に当たるのが気になるらしい。引き締まった腰をくねらせ、背を反らし、ぐるぐる左右を向く度に兎耳が揺れるのは何とも可愛らし――
(いやだから可愛いってなんだよ!?)
駄目だ、気を抜くとすぐ思考がおかしくなる。俺は大きく頭を振り、男をつれて居間へ移った。
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