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1.夏が始まる(4)
駅のホームに着く直前まで、ずっと手に触れていた柊翔は、ドアが開いたとたんに俺の肩に手をまわすと、耳元で囁く。
「ドキドキした?」
いたずらっ子のような顔でそう言うと、肩をトントンと軽く叩いて、前を歩いて行った。
なんなんだ。まったく。
こんなんじゃ、身が持たないよ。
ため息をつきながら、先を歩く柊翔の後を追った。
家に向かうバスに乗る前に、駅前のスーパーで夕飯の買い物をした。学生の俺たちが買うようなものといえば、お菓子やジュースなんだろうけど、普通に主婦みたいな買い物(ジャガイモとか人参とか)になっちゃっている。
……これが女の子だったら、新婚さんみたいな感じにでもなるんだろうか。
しらたきを見ながら、「どっちがいい?」と聞いてくる柊翔。俺がこんなこと考えてるなんて、思ってもいないだろう。
まだ明るいうちに家に着けるのが、試験期間の嬉しいところ。夕飯を作るには、まだ早すぎるから、買ってきたものを冷蔵庫に入れると、ポテトチップスと、コーラのペットボトル二本を持って、俺の部屋に行く。先に部屋にいた柊翔は、エアコンをつけて、その真下で涼んでいた。
「お、サンキュ」
俺の手からコーラを受け取ると、さっそくキャップを開けて飲みだす。
ゴクゴクと飲むたびに動く、柊翔の喉に、なぜか目が釘付けになる。俺の視線に気づいたのか、コーラから口を離した柊翔。
「どうかしたか?」
不思議そうに言われて、柊翔を見続けていたことに気が付いた。
「あ、いや、な、なんでもないですっ」
慌てて床に座って、自分のコーラのキャップを開けようとした。柊翔が面白そうに見てるのがわかってたけど、あえて目線をはずした。
「要は、夏休みは何か予定あるのか?」
「いえ、特に。」
帰宅部には合宿はないしな。
「おじさんや、おばさんの実家とかは?」
「……うちは最近はぜんぜん行ってないんで」
両親ともに実家が遠方のせいもあって、俺が中学にあがってからは行くこともなくなった。母が入院している今年も行くことはないだろう。
「柊翔さんこそ、行かないんですか?」
「うちは、どっちの家も近いからいつも日帰りなんだよ」
「あ、もしかして、太山さん?」
「そう。柾人さんは、母親の兄貴の子供。車で三十分くらいかな」
ローテーブルの下に長い足を伸ばしながら、ベッドに背を預けている柊翔を見ていたら、なぜだか、にやけてきた。
「何?」
チラリを俺のほうを見る。
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