6 / 69

1.夏が始まる(6)

「……ごめんな」  まるで、悪いことをして怒られた子供のような顔をして、柊翔は俺の乱れたシャツをゆっくりと元に戻そうとした。 「ごめん……俺……」  シャツに手をかける柊翔の手を止める。 「無理するなよ。要。俺は、お前がそばにいてくれるだけでも、十分なんだから」  そう言って、ギュッと抱きしめてくれる。柊翔の想いに応えたい自分と、素直に応えられないでいる俺の身体。 「少しずつ。少しずつ進めばいい」  そう言って、軽いキスをくれる。 「……うん」  柊翔の胸に顔をうずめて、抱きしめかえした。 「……汗臭くないか?」  苦笑いしながら見下ろす柊翔に、軽くキスを返した。 「そんなことない……柊翔の匂い、好きだ」  上目遣いで見たら、柊翔の顔が真っ赤になった。 「もう~~~っ!」 「うわっ!」  柊翔が思いきり抱きしめたせいで、鼻が潰れそうになった。 「痛いって!」  背中を叩いて、ようやっと離れてくれた。 「要がカワイイのが悪い」  そう言いながら、微笑む柊翔。  ったく……そんな顔されたら、何も言えなくなるじゃないか。 「夏休みに入る前に、行き先決めないとな」 「まだ言ってるんですか?」 「だって、俺にとっては高校最後の夏休みだからな」  ……そうだった。  これから先だって、いくらでも『夏休み』はあるかもしれないけど。柊翔にとって"高校時代の夏休み"は、これが最後なんだ。 「……わかりました。柊翔さんもちゃんと考えてくださいね」  そういうと、俺はおもむろに机の上に置いてあったノートパソコンをローテーブルに置くと、電源を立ち上げた。 「とりあえず、どんなとこに行きたいか、色々探しながら見てみましょう」  そして、俺たちは一緒に、この夏の旅行先を探し始めたのだった。

ともだちにシェアしよう!