10 / 69
2.旅に出よう(4)
「で、もう行くところは決まってんのかよ」
アイスコーヒーを飲みながら、柊翔に問いかける朝倉先輩。
「いや、海にでも行きたいとは思ってはいたんだけど。時期が時期だから、泊まるところとか予約も無理だし、日帰りにでもしようかと、話してたんだ」
柊翔が『な?』と確認するように、俺のほうを見るからコクコクと頷く。
「やっぱな。思いつくのが、おせーんだよ、お前は」
空っぽになったグラスを持つと、おかわりを取りに行ってしまった。俺と柊翔は苦笑いしながら、朝倉先輩が戻ってくるのを待つ。
「で、物は相談」
今度はコーラを持ってきた朝倉先輩。
「うちの親戚のやってる旅館があるんだけどさ。そこに行かない?」
……へ?
この時期に、そう簡単に泊まれるわけがない。普通、早めに予約するものなのはわかってたし、行く場所次第では、すごくお金がかかるってわかってた。でも、柊翔の『高校最後の夏休み』だから、ちょっとでも、一緒に過ごした思い出が作れたら、とも思った。
「まぁ、条件付きなんだけどな」
そう言うと、にたぁ~っ、と笑った、朝倉先輩。
「う。そういう顔の時は、あんまり、嬉しくない条件だな」
柊翔が嫌そうな顔をしてるっていうことは。やっぱり、かなりヤバそうなんだろうか。
「そんなことないよ~。ちょっとバイトしたついでに泊まるってだけで」
「バイト?」
「バイト?」
思わず、二人して朝倉先輩の顔を見つめてしまった。
「そ。バイト」
朝倉先輩のコーラはあっという間に消えていく。
……どんだけ喉渇いてるんだ?
「宿泊日数分働いたら、宿泊費はチャラ」
「え?いいんですか?」
「まぁ、それなりに、こき使われるかもだけどな。」
「そんなの、お前が行けばいいんじゃねぇの?」
「……俺も行くんだよ」
グラスに入ってた氷をガリガリ食べだす朝倉先輩。
「あ、私たちも行くのよ」
ちょうど頼んでたパスタが届いたのか、フォークでクルクルと巻きながら、一宮先輩が話しかけてきた。
「そうなんですか……あ、でも、合宿とかは?」
「合宿をはずして行くに決まってるじゃん」
俺と同じミックスグリルを頼んでた朝倉先輩(♀)は、見事に、ハンバーグをがっついてる。
ともだちにシェアしよう!