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2.旅に出よう(5)

「ていうか、朝倉先輩は、受験勉強、大丈夫なんですか?」  柊翔ですら、夏期講習の予定があるのに。 「……なぁ、獅子倉くん」  空っぽになったグラスを持って、再び席を立とうとしていた朝倉先輩が、俺のほうに顔を寄せた。 「ここには朝倉が二人いるから、下の名前で呼ぼうか」 「……は?」 「『潤先輩』……ほら、呼んでみ?」  ニヤニヤしながら、俺を見下ろしてる。 「え、えーと。潤先輩?」 「ふふふ。いいねぇ……グホッ!?」  柊翔の肘が入った模様……。 「潤……お前、いい加減にしろよ」  柊翔の目が怖いことになっている。 「……はっ!?し、柊翔ちゃん、許してぇ~っ!?」  そう言ったかと思ったら、ドリンクバーのほうに逃げて行った。男たちのそんなやりとりを、面白そうに見ていたのは一宮先輩で。 「鴻上先輩……よかったですね」 「ん?……ああ」  照れくさそうに応える柊翔。なんだか、ほのぼのとした雰囲気になってた。 「うちらは、合宿以外は、ほぼ親戚のとこにいるけど、兄貴はお盆の時期だけかな。鴻上先輩、いつ来ますか?」 「そうだなぁ。要のほうは、いつがいい?」 「えと、特に予定はないんで。柊翔さんの都合のいい日で」 「柊翔さん?」 「柊翔さん?」  一宮先輩と朝倉先輩がハモッた。 「え?な、なんか変ですか?」  二人のリアクションに、俺が変なコト言ったのかと、焦る。 「いや~。へぇ~。鴻上先輩って、そう呼ばれてるんだぁ」  朝倉先輩がニヨニヨしてる。こ、怖い……。  とりあえず、俺は母親が入院していることもあるので、そんなに長く家を空けるのは、ちょっと……と思っていた。だったら、と、二泊三日で、一泊分だけバイトをするということになった。 「海、近いですか?」 「近いよ~。早い時期、例えばお盆前あたりなら、クラゲも少ないんじゃないかな。そうなると、俺とは被らないから、寂しいけど」  今度はメロンソーダ?緑色の液体をズルズルと吸い込んでいる潤先輩。 「そうか。だったら、お前がいない時期のほうがいいな。」 「なんだよ、柊翔、俺のことを避けるのっ!?ヒドイッ!」  潤先輩って、けっこうメンドクサイ人だったんだ、と、白い眼で見ていると。 「残念な兄貴でゴメンナ」  こっそり朝倉先輩が耳打ちした。

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