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2.旅に出よう(6)

 そして、俺たちは、潤先輩の親戚がやっているという旅館にやってきている。  電車での移動は、高校までの通学の時とは違って、外の景色を楽しんだり、朝が早かったから朝食代わりに駅弁食べたりと、いつもと違って、面白かった。  しかし、なんだこれ。すげー、格式のありそうな門構え。 「柊翔さん……ここでいいんですよね」 「……そのはず」  二人とも、なんだか場違いなところに来てしまった気がして、呆然としていると。 「あ、もう着いたの?」  着物姿の一宮先輩が、出迎えてくれた。 「おお、馬子にも衣裳だな」  そう言いながら、柊翔がニヤニヤしていると。 「鴻上先輩、そんなこと言ってられるのも、今のうちですからね」  反撃された。  そして……一宮先輩の言った通りだった。 「柊翔さん……似合いますよ」 「要もな」  旅館に着くなり、俺たち二人は、作務衣を着させられた。 「あらぁっ!二人とも似合うわぁ~!」  大喜びで俺たちを見比べているのは、潤先輩の伯母さんで、ここの旅館の女将さん。 「今から明日のお昼まで、お仕事手伝ってくれたら、次の1泊はお客さんとして楽しんでいってね」 できれば口コミで宣伝してくれると嬉しいけど。ウフフ、なんて言いながら、俺たちは仲居頭のおばさんに紹介された。 「二人とも、こういう仕事は初めて?」 「お、俺、あ、僕はバイト自体、初めてですっ」  だから、余計に緊張してるんだけど。 「私は、ファストフードならあるんですが、こういうのは初めてです」  わ、こういう時は、"私"って言うのか。  思わず、ちょっと大人な柊翔に見惚れてしまった。  それからは、仲居頭のおばさん(深沢さんというらしい)の言われるがまま、広い旅館のあちこちを、それぞれベテランの仲居さんと組まされて駆けずり回り、ほとんど会うタイミングがなかった。  お客さんの出迎えで入口に集まった時に、ようやく、柊翔の顔を見ることができた。 「な、なんだか、すごい忙しいですね」 「そうだな。思ってたより、キツイかも」  くそぉ~、潤のヤツ、早く来ねぇかな、と、ブツブツ文句を言ってる柊翔の隣で、俺は、ちょっとっぴり、ドキドキしてる。だって、初めてのバイトを、柊翔と初めての夏休みに、一緒にできるなんて。  ふと見ると、女子だけの三人のグループが、こっちのほうを見ている。チラッと見ると、キャーキャー言いながら、柊翔のことを見ていた。柊翔を見ると、どうした?という顔をするから、彼女たちのことに気づいていないんだな、とわかる。  モテ男は無自覚っていうパターンか。

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