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2.旅に出よう(7)

 お迎えがひと段落すると、俺たちは早目の夕食をとりに休憩室のようなところに行った。そこには先に休憩に入ってた一宮先輩と朝倉先輩がいた。 「お疲れ様です~」 「お疲れ様です~」  すでに慣れた感じの二人は、食事も終えて、おしゃべりタイムのようだ。 「お疲れ様です。一宮先輩たち、すっかりベテランの雰囲気ですね」 「そうなのよぉ!遥ちゃんと遼子ちゃんてば、物覚えが早くてねぇ!」  同じように休憩に入ってた、他の仲居のおばさんが、俺たちの間に入って楽しそうに話してくる。 「今日は女性客が多いから、お兄ちゃんたち、モテモテなんじゃない?」  ニコニコしながら、俺や柊翔を揶揄ってくる。 「い、いや、俺よりも、鴻上さんのほうがモテそうですよ」  アハハ、と笑って誤魔化すと、 「あんたも、年上の女の子とかが、可愛がりそうだけどねぇ……そうだ、おばさんとこの息子にならない?アハハ」  冗談に聞こえない気がするのだけど……。 「獅子倉くん、気をつけないと食べられちゃうかもよ?」  一宮先輩は、こそっと俺の耳元に囁くと朝倉先輩を連れて、仕事に戻って行った。去り際のあの目が、完全に俺をおもちゃ扱いしてるっていうのがバレバレでムカツク。 「要、一宮に何言われた?」  心配そうに俺に聞いてきたけど、"なんでもないですよ"と笑いながら、食事をつづけた。けして広いとも言えない休憩室は、長居する雰囲気でもないから、俺たちも食事を終えるとさっさと抜け出す。旅館の裏手は、鬱蒼と木々が生い茂っているけれど、海が近いのか、潮の香りが届く。俺たちは、ちょっとした東屋のようなところで、涼んでいた。 「早く、海行きたいですね」 「明日が楽しみじゃん」 「はい。海なんて、すごい久しぶりですよ」  そう。中学時代は、まるで腫物でも触るような感じで、両親も俺も距離を取ってた。そのせいもあって、どこに行くでもなく、気が付くといつも夏休みは終わってしまってた。

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