17 / 69
2.旅に出よう(11)
「お疲れ様~!」
俺たちは、女将さんの家に来ている。
さすが、あんなに大きな旅館を営んでいるだけに、生活の場である家のほうも、かなり大きくて、俺たちだけでなく、朝倉先輩たちもここでお世話になってるらしい。今、目の前には、俺たちが食べるのを待っている豪勢な夕食が並べられている。
「もう、みんな、ありがとうね。助かったわ」
「おばさん、私たち、まだまだこれからなんだけど」
苦笑いしながら、朝倉先輩は、唐揚げをつまんで、口に運んでいく。
「当然、遼子ちゃんたちには、これからも期待してるわよ。でも、男手があると、また違うのよ」
おばさんの笑顔を見ると、少しでも役に立ってるなら、嬉しいと思う。
「いつもなら、うちの息子どもがいたんだけどねぇ」
はぁ、とため息をつきながら、柊翔の空になった茶碗を見つけると、優しく笑いながら「おかわりいる?」と聞いてくる。
「上の子は転勤で九州いかされちゃったし、下の子は留学中だし」
「お二人とも息子さんなんですか?」
山盛りのご飯に驚きつつ、お茶碗を受け取る柊翔。
「そうなのよぉ。だから、遼子ちゃんたちが来てくれた時には、娘ができたみたいで嬉しかったんだけど」
獅子倉くんは?と手を出されたけれど、俺は遠慮した。さすがに、柊翔みたいに盛られたら、全部、食いきれない。
「でも、息子に慣れてると、獅子倉くんや鴻上くんがいてくれると、嬉しいもんね」
ウフフ、と笑っているおばさんに、ふと、入院している母を重ねてしまった。
「ただいま~」
食事中の俺たちの前に現れたのは、女将さんのご主人だった。
「あら、おかえりなさい。あなたは、こっちよ」
そう言って、女将さんの隣の座布団を叩いた。
「お邪魔してます。」
思わず正座をして挨拶をする俺たち。
「今日は男の子もか。久々に、仲間が増えて嬉しいよ」
女子ばっかでハーレムだったじゃないのよ、と、女将さんにつっこまれてるご主人が、嬉しそうにグラスにビールを手酌しようとした。
「あ、俺がやりますよ」
隣に座っていた柊翔がビール瓶を受け取って、グラスに注いだ。
「いやぁ、嬉しいねぇ。これで、一緒に飲めたら最高なんだけど」
「すみません、未成年なんで」
「いやいや」
美味しそうにビールを飲むご主人と、それを幸せそうに見つめる女将さんを、いいな、と思いながら見つめていると、「帰りたくなったか?」なんて、耳元で柊翔が囁いた。
ともだちにシェアしよう!