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2.旅に出よう(15)
まさか、先輩たちが、そういう関係だったなんて、思ってもいなくて、二人の段々と高まっていく声に、俺自身も身の置き所がなくて、風呂へ行く準備の手が止まってしまう。
ただただ、早く、柊翔に戻ってきてほしかった。
しばらくして、彼女たちの小さな喘ぎ声に被るように、廊下を歩く音が聞こえてきた。
ガラッ!
「要、行って来いよ」
……っ!?
風呂上がりの柊翔は、部屋の灯りで洗い立ての髪が艶やかで、少し頬を赤くしているから、色っぽく見える。
しかし!ここで、俺の名前を大きな声で呼ぶなんて!
思い切り赤面している俺を心配してか、「どうした?」と言って、俺のそばによってきた。
……隣からの気配がしなくなって。
……俺は、明日、どんな顔で先輩たちと会ったらいいんだろう、と、余計に真っ赤になってしまう。
「ぬるくなるぞ?」
「は、はい……」
小さく返事をすると、俺は、慌てて部屋を飛び出した。
先輩たちに煽られまくって、俺自身も大変な状態になっちゃっていたけれど、一人でゆっくり風呂に入ったことで、なんとか落ち着くことができた。
しかし、あの部屋に戻ると思うと、隣にいる先輩たちを思い出してしまって。
そうすると、さっきのことが頭をよぎって、なかなか風呂から上がれなくなってしまう。でも、明日も早い……というか、もう日付が変わってしまうかもしれないことに気づいて、慌てて風呂を出た。
静かに、音がしないように、廊下を歩く。
襖の隙間から、俺たちの部屋の灯りが漏れている。まだ、起きてるのかな、と思って、静かに開けると、布団の上で大の字になって寝ている柊翔がいた。
俺のことを待っててくれたのかもしれない。自分の分のタオルケットを下にしたまま寝ている柊翔の寝顔が、なんだか、可愛らしくて、思わず微笑んでしまう。
ゆっくりと、静かに、タオルケットを引っ張ってみたけれど……やっぱり柊翔の身体の重みで、動かない。
「仕方ないな……」
この時間になると、少しだけ涼しくなってきているのは、海が近いせいか。柊翔の少しだけはだけた浴衣を直すと、俺の分の布団を柊翔の布団に引き寄せた。
「広げれば、なんとか、お腹くらいは隠れるだろ」
僕の分のタオルケットを横に広げてみる。傍で眠れば、なんとか僕も入れそうだった。部屋の電気を消して、隣の布団に横になる。ちょっと柊翔との距離が近くてドキドキするけど、もう寝てしまってるから。そして、俺も、いい加減、眠い。
ゆっくり、ゆっくりと瞼を閉じた。
***
「起きろ」
……?
少し、遠いところから聞こえる声が、柊翔の声のような気がするんだけど。
「ほら、遅れるから、さっさと起きろ」
……あ。
目の前には、作務衣の格好に着替えている柊翔。
「あ、あれ?」
「何、お前、寝ぼけてる?」
ああ、そうだった。
ここは、旅館で、女将さんの家に泊まったんだっけ。
「ああっ!?」
慌てて飛び起きて、俺も作務衣に着替え始めた。
「本当は、このまま寝かせておきたかったけど」
柱に寄りかかりながら、俺が着替えているところを、楽しそうに見ている柊翔。
「いやいや、まずいでしょ。寝坊したら。起こしてくれて、助かりました」
俺が襖を開ける前に、柊翔が腕を捕まえ抱き寄せた。あまり時間がないというのに、深いキスをしてくる。
ちょっと、まずいってっ!?
「んんっ!?んあっ!?」
「午前中分のパワー充電!全然足りないけど」
そう言って笑いながら、もう一度ギュッと抱きしめてから襖を開けた。
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