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2.旅に出よう(16)
昨夜食事をした部屋に行くと、すでに朝倉先輩たちは、食べ始めていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「あら、鴻上くん、獅子倉くん、おはよう!今日も昼までよろしくね!」
にこやかな笑顔の女将さんに、同じように笑顔で返そうとしたときに、朝倉先輩と目が合ってしまった。
慌てて、目をそらすけど。できるだけ、昨夜のことは思い出さないように、と思っても、余計に意識してしまう。
自然に……自然に……自然に……なんて、できるわけもない。
だから、目を合わさないように、"食べることに夢中になってます!"という雰囲気だけ、がんばって、箸を運ぶ。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
そう言って立ち上がった二人。
やっと、緊張した空間から逃れられると、ホッと安心しようとした瞬間。
「獅子倉くん、後で話があるから」
……去り際に見せた、朝倉先輩の目が怖かった……。
「要、なんかあったか?」
朝倉先輩に声をかけられた様子をみて、心配そうに柊翔が聞いてくる。
あなたの一言がなかったら、と、思いながらも、今さら言ったところで……。
「いやぁ、わかんないです」
苦笑いで返すしかない。
テレビでは今日の天気は"晴れ"と言っていたけれど、すでに、俺の心の中には暗雲が垂れ込めている。だったら、できるだけ嫌なことは、早いうちに終わらせてしまおうと、女将さんに「おかわりは?」と聞かれる前に、食器を片付け始めた。
「あら、それだけで足りるの?」
「あ、はい。朝は小食なんです。俺」
「もう、行くのか?」
「はい。朝倉先輩のほうも気になりますし」
実際は、気になるどころじゃないけど。まだ、ゆっくり食べている柊翔を残して、俺は旅館にいるはずの先輩たちを追いかけた。
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