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2.旅に出よう(17)
旅館の玄関で、先輩たちに追いついた。
「あ、朝倉先輩っ」
振り向いた朝倉先輩は、なんだか優しい顔をしている。
「さてと」
いや。
全然……全然、優しそうじゃない。
目が……目が、怖いっ!
俺の腕を掴むと、朝倉先輩はグイグイと引っ張って、人の来なそうな非常階段のところまで連れて行った。
「あんた。いたの」
「はいぃぃぃぃ!」
怖い。怖すぎる。
俺より背は低いはずなのに、思い切り上から声が聞こえてくるのは、俺が思わず身を屈めてしまったから。
「……ったく」
「遼子、私たちも悪いのよ。彼らが一緒に行ったか確認しなかったんだから」
朝倉先輩の後ろから、一宮先輩の冷静な声が聞こえてきた。
「まぁ、もう説明する必要はないわよね?」
「……はい」
「私たちが、鴻上先輩を応援する気持ちも、わかるでしょ?」
優しく声をかけてくる一宮先輩。
「……はい」
先輩たちも同性の人を好きになってしまったということ。
だから、同じように、俺たちのことも、応援したいと思ってくれた。
「まぁ、もともと、私も遼子も、腐女子だけどね」
「へ?」
「だって、鴻上先輩だったら絵になるし?」
ねぇ?と言いながら、微笑みあってる先輩たちは……幸せそうだ。
「ま、本当は河合くんとのほうが絵になると思ってたんだけど」
『河合』という名前を聞いて、ドキッとする。
……ああ、だから。
だから、最初の頃、俺と柊翔の間を邪魔してたのか。
「鴻上先輩が好きなのは、どう見ても獅子倉くんだったしね」
淡々と話し続ける一宮先輩。
「とにかく」
これで最後、と言わんばかりに、冷ややかな眼差しの一宮先輩。
「お互いに、何かあったら助け合うっていうことで。いいわね?」
「は、はい……」
「それと」
俺よりも大分小さい一宮先輩が、俺の顔に手をかけて、俺の目を冷ややかな目で見つめる。
「鴻上先輩は、知らないことだから。ていうか、誰も知らないんだから。バレたら、あんたが犯人ってわかるからね。それ、覚えといて」
じゃあね、というと、二人は仲良く玄関のほうに歩いて行った。
……先輩たち、怖い……。
でも、二人が楽しそうに歩いていく後ろ姿は、すごく綺麗で。
あの人たちには、あの人たちなりに、いろんなことがあったのかもしれない、と、思うような笑顔だった。
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