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3.再会(6)
「……なんだよ。かっこつけやがって」
でも、悔しいけど、俺にはできないことだ。
要を守ってやりたいけど、現実で俺ができることは。
俺は海に背を向けると、急いで旅館に戻った。
「鴻上先輩っ!」
旅館の入口で、一宮に捕まった。
「なんだよ、急いでんだけどっ」
「獅子倉くんに何したんですかっ」
「えっ?」
一宮の顔が、瞳が、怒りを含んでいた。
「さっき、泣きながら戻ってきて、声かけたけど、全然気づかないで走ってたから」
「……」
「部屋に戻ったみたいですから。ちゃんと仲直りしてください」
バシッと、思い切り背中を叩かれた。痛さで思わず、顔がゆがむ。
絶対、赤い手の跡がついているに違いない。そう思いながら、足早に部屋に向かった。
部屋に戻って戸を開けようとして、鍵がかかっていた。そうだ。鍵は俺が持ってる。
じゃあ、どこへ?
俺は考えられる限り、旅館の中を探して回った。そして、女将の家にも行ったけど、当然鍵がかかってて入れない。
――どこにもいない?
まさか、一人で帰ったとか!?
いや、海に行くのに、水着にパーカーくらいしか着てなかった。それにたいして荷物は持ってなかったし、金だってたいしてもってなかった。
あとは、どこが考えられる?
焦りだけが、俺を追い詰める。
要、どこだよ!?
あと探していないところ……?
どこだ?
どこだ?
――あ。あそこは?
思い出して向かったのは旅館の裏手。
青い空が広がっているけれど、そこは鬱蒼とした木々に囲まれて日があまり入り込まない東屋。それでも、昨日と同じように潮風が吹いてくる。
いた。
要の横顔が見える。
ひどく青白い顔で、地面を見続けている。
何を思っているのか。
声をかけるのを躊躇するほど、深刻そうな顔をしている。
「……要?」
勇気を出して、声をかけてみた。
"ビクッ"
たいして大きな声ではなかったのに、身体ごと震えた。それでも、俺のほうを見ようとしない。
「要?」
肩に手を置いた瞬間。
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