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3.再会(8)

 俺は、要のトラウマについて、甘く考えすぎていたのかもしれない。 「ごめ、ごめんっ」  オロオロして、何度も謝る要。こんな要を、抱きしめてもやれない。  だけど。 「要、手」 「手?」 「そう、手、出して」  そろそろと手を伸ばしてきたのを、優しく包む。 「これなら、大丈夫?」 「……うん」 「そっか」  今は、これだけでもいい。  少しずつでいいんだ。それでも、要は俺の目の前にいる。 「もう一度、海に行く?」 「……ううん」  空が夕焼けを呼んできそうな色に変わってる。 「亮平、合宿で来てたんだってさ」 「……」 「あいつ、全国出るんだって」 「……」  包み込んだ手の中、要の手が再び握りしめられる。 無言の時間が過ぎていく。 はぁっ、と大きくため息をついた要は、俺の顔を見つめた。ようやく、目に力が戻ってきたか? 「ごめん。部屋、戻ろう」 「大丈夫か?」 「うん」  立ち上がった要の背中に手をまわす。  少しだけ、ビクッとしたけど、大丈夫、という顔で、俺を見つめる。涙でボロボロの顔を、パーカーの袖で拭う。 「……泣きすぎだっての」 「い、痛いですっ」  そう言って、今度は自分の袖で拭きなおす。 「瞼が腫れてる」 「……早く戻って、冷やします」  要が、俺の手を握った。 「戻ろう」  俺も、力強く、握り返した。  旅館の入口を通ると、少し離れたところに一宮たちがいるのが目に入って来た。俺はただ頷くだけで、要を部屋に連れて行った。 「一宮が心配してたぞ」 「え」 「お前が戻ってきた時に、声をかけたらしいけど」 「……あ。誰かに声かけられた気がしたんですが……一宮先輩だったんですね」  怒られちゃうかな、と照れ笑いしながら、洗面所に向かった。  少しだけ、笑顔ができるようになってる。それだけでも、よしとすべきなんだろうけど。 「あー、泣いたら、お腹空いちゃいましたよ」  相変わらず、瞼が腫れたままの要。 「ちゃんと冷やせよ?」  風呂場にあったタオルを濡らして、要の瞼の上にのせる。 「あ、気持ちいい」  口元が緩く上がった。柔らかそうな唇に、つい視線が釘付けになる。  ――無意識に。  本当に無意識に、唇を重ねてしまった。  要は、固まってる。 「ご、ごめん」 「……う、うん」  そう言いながら、目に当てていたタオルを離した要は、顔が真っ赤になっている。なんだか、お互いに恥ずかしくて、目を逸らしていると。 「失礼します~」  ノックの音に気付かずにいた俺たちは、仲居さんの声に驚いた。 「あらっ」  見覚えのある仲居さんが、ドアを開けて立っていた。 「あ、もう、そんな時間ですか?」 「ええ……なに、ケンカでもしたの?」  心配そうな顔で見られてしまった俺たち。 「あ、すみません。もう仲直りしましたから」  ニッコリ笑って、窓際の低い椅子に座った。

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