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3.再会(15)
店を出て駅に向かう。特に話すことなど思い浮かばず、ただ、亮平の後をついていく。
「亮平さん」
宇野さんの声で、もう駅についていたことに気づく。
その後ろから、ゆっくりと柊翔も現れて、亮平と話をしている。
俺は、それをぼんやりと見ているだけ。結局、亮平は何の話をしたかったのか。柊翔は、どんな話をさせたかったのか。俺にはよくわからないままだった。
「要、そろそろ電車来るぞ」
そう言うと、俺の腕をとって歩こうとする。
「要」
亮平が後ろから声をかけてきたけど、俺は振り向かない。
「また、剣道やれよ」
優しいその声は、頑なだった俺の心に侵食してくる。
「……なんなんだよ」
立ち止まってしまった俺は、自分が泣いていることに、気が付いた。
そして。本当は。
ずっと、亮平のことだって、大好きだったんだって、思い出させた。
「要……」
不安そうな柊翔。
「ちょっと待っててください」
涙を拭いて、ニコリと笑うと、俺はもう一度亮平のところに向かった。目の赤い俺を見て、驚いた顔の亮平。
「……一発、殴らせろ。」
「要……」
「獅子倉くん、こんなところではっ」
人の流れが出てきた通りでは、と、俺を止めようとする宇野さんを、亮平は、軽く手で制した。
「いいよ」
優しく微笑む亮平は、憎たらしいほど、大人な顔をしていた。
「クソッ!」
俺は、今の俺にできる最大の力で、亮平の腹に拳を叩きつけた。
"うっ"
亮平の微かに呻く声が聞こえたけれど、2,3歩後ろに下がっただけで、倒れ込むことはなかった。
「くぅ……っ。要も、強くなったな」
少しだけ顔を赤らめているけど、余裕の微笑みがムカつく。
「お前なんか、大嫌いだ」
それだけ言うと、俺は柊翔のもとに駆け戻った。亮平には見せなかったけれど、俺の顔はやっぱり涙でボロボロで、そのまま柊翔の腕にすがるように手を伸ばしていた。
「帰ろう」
空いているほうの手で、俺の頭を優しく撫でる。
「うん」
俺たちは、そのまま、振り返りもせずに改札を抜けていった。
* * *
「行っちゃったなぁ……」
ぼうっと駅のほうを見つめたまま、ボソリとつぶやく亮平。
「そうですね」
寂しそうな亮平の肩に、手を置くと
「でも、獅子倉くん、いい顔になってたと思いませんか」
「……そうかな」
「そうですよ」
宇野の言葉に、少しだけホッとしたようだが。
「……嫌われちゃったなぁ……」
「そんなの、前からじゃないですか」
「でも、言葉ではっきり言われる方がキツイ」
「自業自得ですよ」
苦笑いしながらも、亮平を駐車場のあるほうへ促す。
「それでも、お好きなんでしょう?」
「うん」
「それじゃあ、仕方ありませんね」
後部座席のドアを開け、亮平を座らせる。
「とりあえず、全国のほうに集中しましょう。せっかく獅子倉くんからパワーもらったんですから」
「パワー?」
「お腹に、思い切り、叩き込んでもらったじゃないですか」
「……意味、違うだろ?」
「ふっ。なんでも、いいように解釈しちゃったほうがいいんですよ」
「そうかなぁ?」
納得いかない顔の亮平を、バックミラー越しに見て楽しそうに笑うと、車をゆっくりと進めた。
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