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4.火花散る(3)
近づくにつれて、女の子たちの楽しそうな声が聞こえて、同級生らしいことがわかる。
懐かしいんだろうな。
と、同時に、ああ、彼女たちも柊翔のこと好きなのかも、とも思った。後ろから見える彼女たちの横顔が、すごくキラキラしてて、なんだか、可愛らしいな、と思ってる俺。
入口近くまで来ると、柊翔も俺の顔を見てるのに、彼女たちの会話は止まらない。柊翔も"参ったな"なんて顔してるから、俺も仕方がないかと、軽く会釈して入ろうとしたら。
「要っ。」
慌てて、俺の名前を呼んだ。
え?、と思って振り返ると、「ごめん、またな」と言って、彼女たちから離れて俺の隣に立った。
「い、いいんですか?」
気になって、彼女たちのほうを見ると、どこかポワンとした顔で柊翔のほうを見ている。
「ん、大丈夫。中学んときの同級生なだけだし」
そう言うと、図書館の中に入るように俺の背中を軽く押した。 図書館の中は、さすがに空調が効いていてひんやりする。背中にあたり柊翔の手の熱が、じんわり伝わってくる。
「自習室は2階だったよな」
そう言いながら、階段のあるほうへ、向かう。
俺たちと同じように、勉強している人たちの背中を見ながら、空いている席を探すけど、隣同士で空いてるところが見つからない。
「柊翔さん、ここ使ってください。俺、あっちにいますから」
小さい声でそう言って離れようとした時、ギュッと手を握られた。
こ、こんな場所で!?と、思わずギョッとしたけれど、誰も俺たちのことになんか気にも留めない。
「キリがよくなったら、LIMEして」
俺の目を見つめながら、ニコリと微笑まれたら……俺、ちゃんと勉強できるか、心配になってきた。
そうはいっても、静かな自習室の中。カリカリと、ペンの音と、ページをめくる音が響く中、意外に集中している俺がいた。マナーモードのまま、机の上に出していたスマホに、LIMEのメッセージが浮かび上がる。
『一休みしない?』
スマホに表示されている時間を見ると、2時間くらい過ぎていた。慌てて、『飯、行きますか?』とメッセージを送ると、『自習室の入口で待ってろ』というの返事。
チラリと見ると、さっきの女子たちが、また話しかけてた。仕方ないなぁ……と机の上を片付けると、静かに出入り口に向かう。どこに行くかなぁ、と思いながら、窓の外を眺めていた。
「悪いっ」
小さな声で柊翔が声をかけてきた。
なんだか、本当に悪いと思ってるようで、情けない顔の柊翔。
「いいから、早いとこ、飯行きましょう」
クスクス笑いながら、階段を降りはじめたら。
「鴻上くんっ!」
少し切羽詰まったような、女の子の声が階段に響いた。
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