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4.火花散る(4)
うわわ、なんだ、これ。
彼女たちのうちの一人が、柊翔のシャツを掴んでた。
今までは気にもしてなかった。ただの友達なのかと思って。だって、柊翔も、困りながらも普通に話しているっぽく見えたし。
でも、彼女の必死な顔が、俺の目に飛び込んできた。
そんなに背は高くない。
ふわふわした感じなのは、肩ぐらいの長さの茶色っぽい髪が、ゆるくパーマがかかってるせいか。目がクリッとしてて、確かにかわいい。
……普通にかわいい。
そんな子に、縋られて、嫌な男はいないと思う。そして、ああ、やっぱり、柊翔は女の子のほうがいいって思っちゃうのかな。そう思うと、胸がズキッと痛くなる。
柊翔がどんな顔しているのか気になって、つい、柊翔のほうを見た。
……あ。あれ?
「……澤登 」
すごく、嫌そうな顔してる。でも、そんな表情の柊翔を気にも留めず、彼女は柊翔に寄り添うように立つ。
……なんだか、イラッとする。
柊翔が嫌そうな顔してるのに。自分の気持ちが最優先。そんな感じが、なんだか、俺を苛立たせる。でも、柊翔は振り払うでもなく、ただ顔をしかめるだけ。
「あの、あのねっ」
「鴻上さん」
つい、苛立たしい気持ちが抑えられず、声を出してしまう。
ああ、柊翔、嫌だろうな。こんな俺なんか。でも、俺に向ける柊翔の顔は、むしろ"助けて"という顔をしているように見えて。
「時間ないから、早く行きませんか」
「あ、ああ。悪い、澤登。またな」
そう言って、ようやく彼女から離れて、俺のところに駆け寄った。
「要、サンキュ」
隣を歩く柊翔が、片目を閉じながら、拝んでくるから、本気で困ってたんだと思うと、笑ってしまう。
「ちょっと、強引でしたかね」
自分でも、そう思うんだから、彼女もそう感じたかな。ちょっと苦笑いしながら、柊翔を見ると。
「たまには、そういうのもいいんじゃないか?」
ニヤッと笑う柊翔に、なんだか照れくさくなって俯いてしまう。
「そういや、時間がないって……」
「いえ、咄嗟に出てきただけで、別に時間とか関係ないです」
エヘヘ、と笑った俺の頭をグリグリと撫でる。
「グッジョブ」
そう言って、楽しそうに笑う柊翔に、思わず見惚れてしまった。
「何?」
不思議そうな顔で覗き込む柊翔。
「な、なんでもないですっ。早く、何か食べに行きましょう!」
俺は、慌てたように、うだるような暑さの中に飛び出した。
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