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4.火花散る(7)
雅春たちとじゃれあいながら、露店をのぞいていると。
「あら?七尾くん?」
女の子の声がした。
「あ!澤登先輩!」
聞き覚えのある名前に、ギョッとして、振り向くと。
……ああ、図書館で遭遇した彼女だ。それに気づいて、すぐに顔を背けてしまった。
「す、すごくカワイイですね。浴衣似合ってます」
……ん?雅春の声が、ずいぶんと緊張している風に聞こえる。
「ありがと。七尾くんも、甚平似合ってるわ」
「ぷ。よかったな、雅春」
二人とも知り合いなんだ。
なんだか、俺だけが居心地が悪い。そんな俺の気持ちも知らず、和人が、ちょんちょんと俺の肩をたたく。
「ん?」
「あの人。雅春が付き合ってるの」
……え?
思わず、振り返ってしっかりと見てしまった。
白地に濃いピンクの大きな花が描かれた浴衣。この前見た時はおろされてた髪が、キュッとまとめられて、白いうなじが色っぽい。
……確かに、カワイイ。
この前も思ったけど、この人は、かわいいとは思う。
「あら?」
俺がジッと見つめすぎたせいか、彼女も俺のことに気づいたようだ。
「あ、こいつは、中学の時の同級生で……」
「あなた、この前、鴻上くんと一緒だった子よね」
ああ、やっぱ、覚えられてたか。
「どうも」
できるだけ、そっけなく挨拶したのに、彼女は、目をキラキラさせて、俺の方に近寄ってきた。
「ねぇ、鴻上くんとは、仲がいいの?」
ええ。いいですよ。キスするくらいには。
……と、言えたらいいのに。だけど、言えない。
「まぁ」
そう言うと、俺はその場を離れようとした。
グイッと引っ張られる感じがして、思わず身体がよろける。『澤登先輩』と呼ばれた彼女が、俺の甚平の裾を掴んでた。
「な、なんですか」
思わず、ムッとして言うと
「鴻上くんは今日は一緒じゃないの?」
そう言いながら、キョロキョロ見回す。どう見たって、雅春たちと一緒にいるって、わかんねーのかな。
「一緒じゃないですよ」
「澤登先輩、誰っすか。そのコウガミくんって」
心配そうな顔で、彼女を見ている雅春が……不憫だわ。
そうやって思ってたら、思わぬところで爆弾が落とされた。
「ウフフ。私の元カレ」
え。まさか?
……結局、図書館からの帰り道で彼女との関係について聞いても、友達としか言わなかった柊翔。
ちゃんと聞いておけばよかったのか。
もっと追及したほうがよかったのか。
嬉しそうに微笑む彼女。
ズキンと胸が痛くなった。
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