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4.火花散る(9)
隣を歩く柊翔の浴衣姿は、いつもと違って、ちょっと大人びて見える。
「今日は、浴衣なんですね」
黒字にグレーの線が入った浴衣が似合いすぎて、じっと見るのが照れくさくて、焼きそばの露店のおじさん(いや、おっさんか)のヘラさばきを見る。
「ああ、母さんが着せたがってうるさくてさ。そうだ、お前のもあったんだぜ。でも、今日は別行動だって言ったら、ぶーぶー文句言われたよ」
「え?俺のですか?」
「ああ、なんかおばさんに頼まれてたみたいでな」
……そうなんだ。俺には、何も言ってなかったけど。
「花火の時は、一緒に着ようぜ?」
な?と、俺に微笑む柊翔に、彼女のことを聞く勇気はなかった。結局、焼きそばを買って、神社に行こうとする俺に、"俺たち保護者"と言って太山さんがついてくるものだから、柊翔も苦笑いしながら、ついてきた。
「おせーよ、要」
そう言いながらお好み焼きをつついてる和人と、食い終わって"次は何食うか?"とキョロキョロ見回している雅春。
「わりぃ、知り合いに会っちゃって」
そう言いながら、太山さんと柊翔を、二人に紹介した。
「……もしかして、この人がコウガミくん?」
呆然とした顔の雅春に、失敗したか?と、苦い顔になってしまう。
「うん?鴻上です」
ニッコリ笑う柊翔に、罪はない。罪はないんだけど。
「あー、雅春、ごめん」
ちょっと、俺も柊翔に会えて浮かれてたかも。
「い、いや。でも、本人に会えてよかったというか。まぁ、なんだ、うん……」
そう言いながらも、ちょっと落ち込むよな。
だって、柊翔は、雅春とは違って背はそこそこデカイし。正直……キリッとしたイケメンだし。雅春はどっちかといえばカワイイ系だもんな。
雅春のリアクションの悪さに、どうかした?という顔で、俺をのぞきこむ柊翔。
うん……そうだよね。そうなんだけど。
俺も、なんとなく言いづらくて、曖昧な笑顔で返すしかなくて。
「あー、鴻上さん、澤登先輩のこと、ご存じですよね?」
そう聞いてきたのは、和人で。和人は意外に冷静に、柊翔のことを見ている。
「澤登?知ってるよ?」
「俺たち、澤登先輩の後輩なんすよ」
「へぇ?」
……うん。いたって普通のリアクション。
「あ、あのっ」
そこで思い切って聞いてきたのは雅春で。
「鴻上さんって、澤登先輩の元カレなんすかっ!?」
……そこで聞いちゃうんだ。
俺は、なんだかいたたまれなくなって、ちょっと視線をはずしてしまった。
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