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4.火花散る(12)
な、なんで?もっと引かれるかと思ったのに。
ぽかーんとしている俺を見て、ニコニコしている二人。
「な……んで?」
素直に、そう言葉が出てきてしまった。
「なんでって」
「なぁ?」
顔を見合わせる二人。
「お前、デカイ男とかダメだったじゃん?」
「理由はわかんねぇけど、苦手そうなの、知ってたし」
「俺たち、同じくらいの身長だったから気にしなかったみたいだけど、体育の野口とか近寄ると、真っ青になってたじゃん」
体育の野口先生……思い出しただけで、血の気がひく。筋肉隆々で、ガタイもでかくて……廊下の先を歩いているだけで、びびってた。
「それなのに、こんなガタイのいい鴻上さんに触られても大丈夫なんて。鴻上さん、こいつに何したんですかっ!」
……違う意味での興味津々な和人と雅春に、俺は、脱力してしまった。
そして同時に、こいつらが俺のこと、気にかけてくれてたということに、今さら気づいてしまった。柊翔を見つめる二人を見ていたら、なぜだか、涙がこぼれてきた。
「お、おいっ、要、大丈夫かよ?」
「え、どうした?」
オロオロしだいした二人を見たら、なんだか笑えてきた。
「ア、アハハ、ごめん、大丈夫。大丈夫だから」
柊翔の腕から離されないまま、俺は甚平の裾で涙をぬぐった。
「いい友達だな」
また、耳元で囁くけど、嬉しくて、素直に"はい"と答えた。
「で、マジで何したんすか」
目が怖いよ。雅春……。
「だから言ってるじゃん。愛してるって。だから愛、だよ、愛♪」
楽しそうに言う柊翔に、二人は"愛か……"と、腕を組みながら俺たちを見ている。
「おいっ、お前ら、へ、変なコト考えんなよっ」
つい、柊翔のことを思うと、そういう言葉が出てきてしまう。
「変なことって……」
ポツリと言う柊翔。寂しそうな顔で見ないでください……。
俺が少しだけ、落ち込みそうになったとき。
「あったりまえだろ~。お前、俺を誰だと思ってんだよ」
雅春は渋い顔をすると、和人は、しょせん、雅春だから、と呆れ顔。
うん。いいんだ。これで。柊翔が変に思われなければ。
「あ、でも、これ澤登先輩に見せたら、諦めてくれるんじゃないっすか?」
そう言いだしたのは和人で。
「は?」
思わず、こいつ、何言っちゃってんの?と思ってしまった。
「ほら。付き合ってる人は、実は男でしたー、みたいな?それじゃ、相手にしてもらえないね、的な?」
……だから。
そういう目で柊翔が見られるのが嫌だから、こっちは必死になってるっていうのに。イラッとして、文句を言おうとしたら。
「諦めてくれるかな……」
雅春が寂しそうに言った。
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