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4.火花散る(14)
「あっ!こ、鴻上くんっ」
額や襟足に汗をにじませた澤登さんは、小さなタオル地のハンカチでぬぐいながら、近寄って来た。その姿に色気を感じたのは、俺だけではなく、雅春なんかは目がハートにすらなっている。
「ああ、こんばんわ」
ニッコリ笑いながら、俺のことを抱き寄せる柊翔。
でも、澤登さんは、そんなことには目もくれず、柊翔しか目に入ってないみたい。
「鴻上くん、は、話があるんだけど」
白い肌のせいか、頬がピンク色に染まっているのが目立つ。
――カワイイな。
そう思ったら、身体に力が入ってしまう。
たぶん、これは嫉妬。どうしようもない、嫉妬。
「なに?」
俺が、嫉妬してるなんて思ってもいない柊翔は、楽しそうに澤登さんに返事をする。
「あ、えと、ふ、二人で話せない?」
恥ずかしそうに、話している澤登さんを、切なそうに見ている雅春を見ると、胸が痛くなる。
「ん~、どういう話?俺、今、デート中なんだけど」
そう言いながら、ニッコリ笑う。
えっ?という顔をしたかと思ったら、周りをキョロキョロ見回しだす。
「デートって……彼女いないって言ってたじゃない……?」
それらしい人、いないじゃない……、とブツブツ言いながら、もう一度柊翔のほうを見つめる。
「彼女はいないけど。彼氏ならいるよ?」
そう言ったかと思ったら、肩を組んでいた俺をギュッと抱きしめた。
お、おいっ!?こんな人の通りの多いところで、はっきりと言うなんて!?もう少し、周りを意識してくださいよ!?
一人でアワアワしてると、目の前にいた澤登さんは、クスッと笑った。
「もうっ。鴻上くんて、そんな冗談言う人だったっけ?」
クスクス笑いながら近寄ってくる澤登さんは、段々と真面目な表情になってくる。
「意地悪ね」
上目遣いで見上げてくる彼女。
「そんなに私って、魅力ないかな?」
彼女には、もう柊翔しか見えてないのか、雅春の視線なんて気にもしていない。
「ん~、信じてもらえないなら……」
そう言ったかと思うと、ニヤリと笑って。
「要?」
「は、はい?」
振り向いた俺にキスをした。
「……っ!?」
な、なんてことをっ!?
あまりのことに、俺は固まってしまい。澤登さんだけでなく、和人と雅春、そして太山さんですら、固まってしまった。
柔らかな唇が離れた瞬間。
「な、何するんですかっ!?」
顔を真っ赤にしながら、思わず口走ってしまった。その言葉に、息を吹き返したように、強い視線で柊翔を睨む澤登さん。
「そんなことくらいで、私が諦めるとでも?」
「諦めて欲しいんだけどね」
クスリと笑いながら、もう一度俺を抱きしめる。
「っ!?」
悔しそうな顔をしたかと思ったら、思い切り顔を背けて走り去っていく。
「雅春くん、追いかけろ」
柊翔の冷静な声に弾かれたように、雅春は澤登さんを追いかけた。
「はぁ……」
和人が大きくため息をついた。
俺の方が、ため息をつきたいくらいなのに。
「し、柊翔さん、もう、離してください」
顔を引きつらせながら、柊翔に言う。
「もうちょっとだけ、抱きしめてたいんだけどな」
なんて、優しく微笑みながら言うけれど。
「いいかげんにしろっ!」
顔を赤くした太山さんが、柊翔さんに拳骨を落とした。
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