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4.火花散る(15)
結局その後、雅春は戻って来なくて、俺と和人は、神社で別れた。太山さんも他の知り合いから連絡が来たのか、さっさと帰っていった。
「要、もう、帰る?」
すっと自然に俺の手を握る。
「えと。そうですね」
優しく握るから、恥ずかしくなって俯いてしまう。人ごみの中だから、俺たちが手を握っていることに気づく人はいない。
「……まだ、時間あるなら、ちょっとお茶して帰ろうか」
ニコリと笑うと、俺の家のあるほうの東口側のファミレスに向かった。祭りがあるせいか、この時間帯でもかなり混んでいる。
「何食う?」
メニューを見ると、全部食べたくなるけれど、実際にはそれほど腹が減ってるわけでもない。
「うーん、祭りの後のせいか、和風で攻めてみたいっすね」
どうしようかなぁ、なんて悩んでいると、楽しそうに俺を見ている柊翔に気づいた。
……そしてなぜか俺は、わらび餅の宇治抹茶アイス添えを食べている。
「で、緑茶なわけ?」
面白そうに見られるのは、誰であっても恥ずかしい。それが柊翔だったりすれば、もっと。
「そ、そういう気分だったので……」
そういう柊翔は、アイスコーヒーだけ。なんか、俺だけ甘い物食べてるなんて……女の子みたいじゃないか。そう思ったら、恥ずかしくなった。
「食わなきゃ、俺が食っちゃうぞ?」
クスクス笑いながら、俺を見つめる。
なんだよ。もう。
やっぱ、カッコイイよな。と、チラリと見てしまう。そして、本当に、俺なんかでいいのかな。澤登さんのことを思い出してしまって、軽くため息をついてしまった。
「今日はごめんな」
急に柊翔が言うから、ドキッとしてしまう。俺が少しだけ落ち込んでるのが、ばれてしまったのか。
「いえ。別に……」
柊翔がモテるのは、うちの高校でも実証済みで、中学時代だって、きっとモテてただろうなとは思う。それに彼氏を取り戻すのにライバル役までやるなんて。
「要、俺、少しだけ嘘ついた」
――え?
すごく申し訳なさそうな顔の柊翔に、俺の胸はざわついた。
何?どんな嘘?
この状況でつく嘘なんて、さっきの澤登さんのことしか思い浮かばない。
「雅春くんがいた手前、あまりあからさまには言うのは憚られて」
コーヒーのほとんど残っていないグラスを、氷だけをかきまぜる。それをじっと見ている柊翔に、何を聞かされるのか、すごく不安になった。
「でも、もしかしたら、彼女が要に接触してこないとも限らないし。彼女の口から、誤解されるようなこと聞かされるんじゃないか、と思うと、すごく心配で」
カラカラと氷のぶつかる音がする。
「俺、彼女を抱こうとしたことがある」
顔色を変えずに、ただグラスを見つめ続ける柊翔。
俺の心臓は、痛いほどにドキドキしてきた。
そうだよね。
彼女の、あの柊翔への執着ぶりを見たら、何かあると、思ってしまう。あんなカワイイ子が目の前で頼ってきてくれたら、柊翔だって、心が揺れないわけがない。
「でも……抱けなかったんだ」
スッと、俺の瞳を見つめた。
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